人生の“地先”はきっと悪くない


 日本の平均寿命は男女ともに80歳を超え、人生100年時代とも呼ばれる時代がやってきた。しかし、どれだけ時間が長くなろうと、自らが欲する全てを手に入れられる人は一握りしかいない。誰しもが諦めと妥協のもとで未来を取捨選択し、ふとしたときに捨てたはずの未来に思い焦がれる。

 本書は、そんな選択を幾度も経験し年を重ねた人たちが、後悔や不安そして将来への期待の中で苦悩する姿を描く短編小説八編。登場人物はみんな、圧倒的な才能があるわけでもなければ、特別に愚かというわけでもない凡人ばかり。しかし、親の介護、病による余命宣告、かつて愛した人との再会……。凡人には凡人なりのドラマがある。

 著者は40歳を過ぎて勤め人から転身した遅咲きの作家。人生の酸いも甘いも噛みしめてきた筆が、ありふれた人生の局面で揺れ動く人々をリアルに肉付けする。ハッピーエンドとは言えない物語ばかりだが、「人生なるようになる」というようなささやかな勇気をもたらしてくれる一冊だ。(万)


『地先』
乙川優三郎 著
徳間書店 刊(1600円+税)