BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『世界「失敗」製品図鑑「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』

2021/11/12 09:00

週刊BCN 2021年11月08日vol.1898掲載

「黒歴史」を自慢せよ

 本書は、企業による大きな「失敗」だけを集めた解説書である。しかも、それら失敗のほとんどは、現在の業界で大きな成功を収めている名門企業が起こしたものである。グーグルのSNS「Google+」といった記憶に新しい失敗から、1980年代にコカ・コーラが行ったフレーバーの変更といったマーケティング史に残る大失敗まで、誰もが一度は聞いたことのある有名製品の失策について、その原因や、当時の関係者は何をすべきだったかを分析している。
 

 紹介されている失敗の多くが、社内的には極めて正しいプロセスを経た上で発生しているのが興味深い。洋の東西を問わず、事業規模が巨大な大手企業では、企業側の都合や“政治的力学”によってユーザー視点を見失うことがままあるが、それに加えて、ニーズやテクノロジーの急速な変化、世界的な経済危機などの外部要因によって失敗が引き起こされることもあり、この場合は回避策をあらかじめ用意するのが極めて難しい。

 これに対し著者は「最初の一手は失敗するものとして、その次の一手に勝負を賭ける」ことで成功への道を開けと説く。実際に、本書に挙げられた企業は、失敗から学んだことで生き延び、その後失敗の損失を埋めても余りある大成功につながったケースも少なくない。人や企業が自分の過去から消し去りたいと思う失敗のことを「黒歴史」と呼ぶことがあるが、変化の激しい時代においては、黒歴史はむしろ勲章と言えるだろう。(螺)


『世界「失敗」製品図鑑「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』
荒木博行 著
日経BP 刊 1980円(税込み)
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