BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『世界インフレの謎』

2022/11/11 09:00

週刊BCN 2022年11月07日vol.1945掲載

インフレの犯人はコロナ禍だった!?

 世界中でインフレが加速している。報道などでは、ロシアのウクライナ侵攻に端を発すると見る向きが多いが、著者は真の要因は新型コロナウイルスのパンデミックにあると説く。本書はさまざまなデータを示しながら、コロナ禍の影響によるインフレの流れを解き明かすとともに、「急性インフレ」と「慢性デフレ」という二つの「病」に侵されている日本がとるべき針路を示している。

 コロナ禍が消費者、労働者、企業の行動を大きく変容させた結果、「供給」の不足が顕著となり、需給バランスが崩れたことがインフレにつながっているとの指摘には説得力がある。また、インフレへの手当てとして各国の中央銀行が採用する利上げは、本質的な解決策ではなく、効果も低いとの主張も納得できる。

 デフレが深刻化する日本もまた、インフレの兆しを見せている。デフレは確かに物価を安定させたが、賃金を低水準に留めてしまった。インフレを許容すれば、企業は価格転嫁に乗り出し、転嫁分が賃金に反映される。海外では当たり前とされるサイクルを生み出す絶好のチャンスが訪れている。コロナ禍は行動だけでなく、経済に対するマインドも変革する機会になるかもしれない。(無)
 


『世界インフレの謎』
渡辺 努 著
講談社 刊 990円(税込)
  • 1