BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『競争なきアメリカ 自由市場を再起動する経済学』
2025/05/02 09:00
週刊BCN 2025年04月28日vol.2057掲載
米国経済市場に何が起きているのか
米トランプ政権による関税措置が世界中に混乱を招いている。乱暴と言える理論に基づく施策は、なぜ実行されたのだろうか。その背景には製造業の低迷や労働者層の貧困拡大があると聞く。米国の経済や企業は繁栄を謳歌しているように見えるものの、内実は歪みに満ち、深い闇を抱えているようだ。米国の経済市場に何が起きているのか。筆者は、企業間の競争が減少し、一握りの企業への集中が高まったことで、さまざまなモノ・サービスの市場で価格が上昇していると指摘。集中が加速する要因に関しては、政治家へのロビー活動や選挙資金提供で歪められた政策があるとする。本書は多面的なデータで、この主張を裏付けていく。
競争が失われたことで、企業は投資への意欲を失い、生産性を低下させた。その結果、経済成長は鈍化して、賃金は伸び悩み、格差拡大にまでつながったという。トランプ政権を強硬的な政策に駆り立てた原因は、米国外にあるのではなく、極めて内政的な問題だったのではないか。
原著は2019年に出版されており、最新の話題は盛り込まれていないものの、米国経済の不透明感が強まっている今だからこそ、手に取る価値がある。(無)

『競争なきアメリカ 自由市場を再起動する経済学』
トマ・フィリポン 著 川添節子 訳
みすず書房 刊 4950円(税込)
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