BOOK REVIEW
<BOOK REVIEW>『雑草散策 四季折々、植物の個性と生きぬく力』
2025/08/08 09:00
週刊BCN 2025年08月04日vol.2070掲載
雑草の生存戦略
街を散歩していると、道ばたの雑草が視界に入ることがある。コンクリートの割れ目からきれいな花をのぞかせているのを見ると、「なぜそんな場所に」と思いつつ、妙に目を奪われる。植物が身に付けている生命力に感動するからだろう。著者は身近な雑草を取り上げ、植物の生存戦略を紹介する。コンクリートの隙間や石垣の間など、思いがけない場所で紫色の花を咲かせる雑草はスミレだ。スミレは種の表面に「エライオソーム」と呼ばれる物質をつけている。これを好むアリが巣のあるコンクリートの隙間まで種を運び、そこで根を張り春になると花を咲かせる。つまり、アリを利用した生育範囲の拡大戦略の結果として、道ばたでスミレを発見できるとのことだ。
スミレはほかにも、花粉を確実に付着させるために昆虫を誘導する花びらがあったり、チョウやハチといった花粉を運ぶ能力が高い昆虫以外は蜜を吸えない仕組みを持つなど、繁殖の確率を高めるための構造を有している。スミレに限らず、何気なく見かける雑草は、それぞれ個性的な生存戦略を取っており、その生き残りをかけた工夫を知れば思わず見入ってしまうだろう。
(石)

『雑草散策 四季折々、植物の個性と生きぬく力』
田中 修 著
中央公論新社 刊 1188円(税込)
- 1