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クアルコムジャパン、AI時代を迎えるPC市場に変革。Snapdragonの魅力とは

2025/09/26 09:00

 企業がAIの利活用を本格化させていく中で、AI PCの導入が進んでいる。今後を考えると米Microsoft(マイクロソフト)が定義する「Copilot+ PC」が基準になると考えられているが、そこに変革をもたらす存在として注目を集めているのが、米Qualcomm(クアルコム)の「Snapdragon」搭載PCだ。携帯端末で鍛えた高性能と省電力を両立し、AI時代におけるビジネスPCの新たな選択肢になろうとしている。その性能と商材としての魅力について、クアルコムシーディーエムエーテクノロジーズの井田晶也・PC Business統括本部長に話を聞いた。

クアルコムシーディーエムエーテクノロジーズ
PC Business
井田晶也
統括本部長

「Copilot+ PC」準拠が企業規模を問わず必須に

——2025年10月のWindows 10 EOSに伴う端末のリプレース需要は、中堅・中小企業を中心に現在も旺盛です。これを機に、企業は業務へのAI活用に関心を高めていますが、この動向をどう捉えていますか。

井田 業務効率化はどの企業にも共通する課題で、AIはこれを解決する有力な手段で、「ChatGPT」や「Copilot」を利活用した文書作成や翻訳など、すでに多くの方々はAIを意識せずに活用しています。さらに落とし込んでいくと、小売店や販売店でマーケティングのデータ分析にAIを活用することも一般的になってきました。人手不足や採用に悩む中堅・中小企業の方々こそ、人的リソースを補うためにAIを積極的に活用すべきであり、また、採用自体にもスクリーニング、採否の客観的な判断など、AIはさまざまな面で貢献できます。

——業務で本格的にAIの利活用を進めるには、今後はCopilot+ PC準拠のPCが必須になると考えられます。Copilot+ PC準拠のスペックを有する製品は高価ですが、大企業はともかく、中堅・中小企業でもそれだけの投資をする価値がありますか。

井田 AIの利活用をよりスケールアップして業務に取り入れていくには、Copilot+ PC準拠のデバイス利用が、長い目で見てコスト的にもメリットがあると私たちは考えています。今後、AIに特化したアプリが続々と登場してきた時に、高性能のNPU(Neural Processing Unit)がないと、最適に稼働できないケースが出てきます。作業の効率化という点からも、Copilot+ PC準拠のデバイスは企業規模を問わず必須になると思います。

性能とバッテリー、どちらも犠牲にしない

——そうした中、24年にマイクロソフト「Surfaceシリーズ」初のCopilot+ PC準拠モデルとして「Snapdragon Xシリーズ」搭載機がリリースされました。Snapdragon Xシリーズを搭載するWindowsノートPCやタブレットは他のメーカーからも続々と発売されています。Copilot+ PC登場時点では、それに求められるAI処理性能を提供できるプロセッサーはクアルコム製品だけでしたが、米Intel(インテル)、米AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)に続く第3の選択肢としてのSnapdragon搭載機の魅力を教えてください。

井田 Snapdragon Xシリーズには、X Elite、X Plus、Xという3種のラインアップがあります。その全てでCopilot+ PCの基準である40TOPS(Tera Operations Per Second)を上回る45TOPSを備えたNPUを内蔵していることが、他社のプロセッサーと違う点です。

 もう一つが、技術のルーツの違いです。Snapdragonには、スマートフォンで培った最新テクノロジーが投入され、それをPCに向けて最適化しています。この技術をもって新しいPCの体験を実現しており、言うなれば第3の選択肢ではなく、新しい第1の選択肢になるものというのが、他社にはない私たちの強みです。

——具体的に強みを教えてください。

井田 他社の場合によく見られるのが、バッテリー駆動時にはパフォーマンスを落として、バッテリーを長持ちさせるという動作の切り替えです。その点、Snapdragon Xシリーズは性能とバッテリーのどちらも犠牲にせず、アンプラグド(バッテリー駆動時)であってもパフォーマンスは変わりません。電源接続時と大きく変わることないパフォーマンスを体験できます。
 
Snapdragon Xシリーズはバッテリー駆動時も電源接続時と変わらない性能を発揮

 これもルーツの話とつながりますが、みなさんがスマートフォンに電源コードをつないだ状態で通話やメール、チャットをすることはほぼなく、夜のうちに充電して、朝起きるとコードを外して1日中持ち歩いて使用していることでしょう。その使い方を前提にSnapdragon Xシリーズは設計されているので、バッテリー駆動時がデフォルトであり、高いパフォーマンスを常に維持しながらも、丸1日以上バッテリーが持つことを前提としています。

 コロナ禍以降、リモートワークが当たり前になり、場所に関係なくどこでも仕事ができるようになったことで、PCも丸1日稼働できることが求められるようになりました。Snapdragon Xシリーズ搭載機であれば、バッテリーの持ちを心配せず、AIの利活用を含めた業務が可能です。

——丸1日稼働できることで利便性も向上しますね。

井田 1kgを切る軽量なモバイルPCが増えていますが、丸1日稼働できなければ、泊りの出張では充電用に数百gのアダプターも一緒に持ち歩くことになります。その点でも、アダプターなしで丸1日以上稼働できるメリットは大きいです。今後、デタッチャブルなバッテリーが登場してくれば、数日から1週間でもバッテリーだけで対応可能な世界も見えてくるでしょう。

 低消費電力は発熱にも有利で、自社調べにはなりますが、他社製のCPU搭載PCとSnapdragon Xシリーズ搭載PCで同じソフトを20時間連続稼働させた比較では、平均7℃~9℃の温度差になりました。ノートPCが薄く軽くを追求する中で、発熱対策は永遠の課題です。より高性能なPCでもスマートフォンと同様のファンレスも実現できるなど、設計上の自由度も高まります。

トップアプリ200の99%以上が動作、うち8割以上がネイティブ

——Intel、AMDはx86/x64アーキテクチャーですが、英Arm(アーム)のアーキテクチャーを採用するSnapdragon搭載PCは、Arm版Windowsです。そのためソフトウェア、周辺機器との互換性を気にするユーザーも少なくないと思いますが。

井田 企業ユーザーの方々が最も気にされているのが互換性ですが、グローバルトップ100のアプリでは全て、トップ200でも99%以上が動作することを確認しています。また、そのうちの8割以上はネイティブアプリとしてリリースされています。

 プリンターについては、MFP(Multifunction Peripheral)を中心としたレーザープリンターなどビジネス系製品については、主要なプリンターメーカー様のほとんどがWindows Arm版のドライバーやPSA(Print Support Application)をリリース又はリリースすることをアナウンスしています。まだアナウンスのないメーカー様も若干おられますが、極めて近い将来ご対応いただくべく、お話を進めているところです。

個別の要望にも対応し、互換性の不安を払拭

——各ユーザー環境では、トップ200以外のアプリも使用されていると思いますが、どのような対応を。

井田 国内で主に使用されているアプリについても、私たちが最も重要性が高いと考えているものをリストアップし、メーカーに対応を依頼しています。ネイティブアプリ以外については、Snapdragon上でx86/x64環境をエミュレートする「Prism」でスムーズな稼働が可能です。

 これは普段からSnapdragon Xシリーズ搭載PCを使用している私の主観にはなりますが、エミュレーション稼働でも感覚的にネイティブアプリとの差を感じません。かつてエミュレーションでのアプリの稼働は、カクカクするなどかなり違和感があることが当たり前でした。Prismでの主なアプリ使用で、ほとんどの方はパフォーマンスへの影響を感じることはないと思います。仮に稼働に違和感を覚えることがあれば、すぐに原因を究明して修正し、リリースし直すといった対応もしています。

——ユーザーからのアプリ対応の要望にも応えていくのでしょうか。

井田 そうした意見を私たちは特に重視しており、ディストリビューター、SIer、小売店を含めた販売会社の方々の声に日頃から耳を傾け、要望が多い非対応のものについてはいち早く対応を進めていきます。また、エンドユーザーの中には自社開発した独自アプリを数千、数万単位で使用されているケースもあると思いますが、Snapdragon搭載PCの導入を検討する際の障害になるのであれば、動作検証をはじめ個別に対応していく方針です。

優位性をアピールでき、提案の差別化につながる商材

——SIer、販売会社の方々がSnapdragon搭載PCを商材として扱うメリットについて教えてください。また、クアルコムとしてどのようなサポートをしていきますか。

井田 まずは、前述したように省電力でありながら、AIの利活用をフルに実行できる高性能を両立するユニークな製品であるということです。これからAIアプリが普及してくると、Copilot+ PCに準拠していなければ快適に動かないケースが出てくるでしょうが、Snapdragon Xシリーズ搭載PCならスペックに悩まずに採用できます。また、認知度を高めるため、他社製の同等スペックのものと、各Snapdragon Xシリーズ搭載機とを比較した際のコストメリット、バッテリー駆動時のパフォーマンス比較など、優位性をしっかりご理解いただけるよう情報発信を積極的に行っていきます。

——現状のユーザーの導入状況はどうでしょうか。

井田 主にモビリティーを生かせる営業職、AIを利活用する機会が多いマーケティング分野、AIを制作に生かすクリエイターの方々が中心です。また、マイクロソフト様やPCメーカー様との取り組みとして、大学などを訪問し、学生に向けてフルに稼働させながらも1日中バッテリーが持つ強みをアピールする活動をしています。

 コンシューマー向けを中心にすでに欧米では約10%、オーストラリアでは約30%のシェアを獲得しており、数年内には日本市場でも2桁シェアを目指しています。

——最後に、今後のロードマップについても教えてください。

井田 つい先日のSnapdragon Summit にて、Snapdragon X シリーズの後継となる Snapdragon X2 シリーズを発表しました。Snapdragon X Elite の後継であるSnapdragon X2 Eliteに加え、 ハイエンドのSnapdragon X2 Elite Extreme  が加わり、従来からの普及価格帯からハイエンドまでの全方位のラインアップに加えて、そのハイエンドを更に上回るX2 Elite Extremeが今回登場することによって、更に選択肢が増え、充実したラインアップを確立することができました。

 
東京駅など全国4都市でタッチ&トライイベント開催

 クアルコムは、25年9月下旬から10月にかけて、大阪、東京、福岡、広島の4都市でSnapdragon Xシリーズ搭載PCを体験できる「タッチ&トライイベント」を開催する。PCメーカー5社の、Snapdragon Xシリーズを搭載したモバイルノートPCの最新製品を一堂に展示し、来場者は性能やAI機能、デザインを実機に触れながら知ることができる。各都市の日程と会場は以下の通り。

【大阪】9月26日(金)・27日(土)
阪急ビッグマン前広場1F 中央WEST広場・販促用展示コーナー
【東京】10月3日(金)・4日(土)
JR東京駅 八重洲中央改札外イベントスペース
【福岡】10月18日(土)・19日(日)
イオンモール福岡1F イーストコート
【広島】10月25日(土)・26日(日)
イオンモール広島府中1F ウェルカムコート
(各会場とも11時から18時まで) 
 
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外部リンク

クアルコムジャパン=https://www.qualcomm.com/company/locations/japan