BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『上司 豊田章男 トヨタらしさを取り戻す闘い 5012日の全記録』

2025/10/10 09:00

週刊BCN 2025年10月06日vol.2077掲載

愚直な商品づくりにいかに回帰するか

 連結で従業員数38万人、売上高48兆円。日本で一番大きな会社であるトヨタ自動車のトップを務める人は、どんな気持ちで仕事をしているのだろうか。本書は、2009年から23年まで同社の社長だった豊田章男氏の「広報担当業務秘書」を務めた著者の視点から見た人物伝だ。

 豊田氏の社長就任はリーマンショックの嵐が世界の企業を直撃した時期。創業以来最悪の営業赤字、世界規模のリコール問題を経験しながらも、抜本的な企業改革でコロナ禍にも負けない会社へと生まれ変わった。豊田氏が行ったのは、経営学の教科書的な改革ではなく、利益や台数を追う数字至上主義から決別し、「もっといいクルマをつくる」ことへの回帰だった。自らハンドルを握りマスタードライバーとして新型車を評価する豊田氏を「お坊ちゃんの道楽」と見る冷ややかな目もあったが、トップが大のクルマ好きであることが、結果として市場や社員からの信頼につながった。

 14年間に開かれたさまざまな会見の裏側にあった、トップの苦悩や心痛が赤裸々に描かれるとともに、側近である著者が、立場や役割を超えた立ち回りを求められていた大変さも伝わってくる。組織人のあるべき姿を探る物語としても秀逸。(螺)
 


『上司 豊田章男 トヨタらしさを取り戻す闘い 5012日の全記録』
藤井英樹 著
PHP研究所 刊 2200円(税込)
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