考えるほどに世界はあやふや
食卓の上にあるご飯を食べてしまえば、茶碗の中からは何もなくなる。何かがあったところからそれが取り除かれた状態を、私たちは「無」と認識している。ただ、無という概念を最初から思いつく人はいない。それは常に「何かがあった」という前提の上に成り立っている。ご飯の存在なしに空っぽの茶碗を考えることはできない。
著者によると「無は、何もないことではない」といい、「無=空っぽ」という常識は、必ずしも正しくないとしている。無とは何かという問いは、哲学的な文脈で古代から議論されてきたが、本書はこれを単なる思弁で終わらせず、近現代の物理学を交えながら検証していく。
また、この問いを最も現代的なテーマに接続し、AIは「無」や「実在」を理解できるのかについても本書では語られている。今のところ、AIは人間とは異なる認知機能を持っているように見える。ただ、人間も状況によって対象を見間違えたり、ないはずのものがあるように見えたりするように、何かがあるという認識は、実はあいまいなものだ。
一見すると現実離れした哲学のように思える書名だが、通読すると、私たちが当然だと思っている「存在する」という感覚そのものが、案外あやふやなものに見えてくる。(螺)
『無とは何か』
堀田昌寛 著
SBクリエイティブ 刊 1100円(税込)