それぞれの正義に理はあるか
企業売買のM&Aを経験し、悲惨な末路を迎える会社が後を絶たない。預金を買い手に吸い上げられる、次々にオーナーが代わる・・・。抑えきれない人間の欲が暗部をあぶり出す。本書は実際のM&Aトラブルに迫ったノンフィクションで、2024年10月に破産手続きの開始決定を受けた船井電機をはじめ、いくつかの事例が登場する。
M&Aの案件には会社の売り手と買い手、それを橋渡しする仲介業者が存在し、本書ではそれぞれの証言が連なる。印象的なのは、立場の違う当事者がそれぞれの正義を語っている点だ。会社の元々の社長は存続のために譲渡したという正義があり、買い手は経営判断の正当性を主張する。仲介業者は適正に役務提供し、M&A成立後のトラブルの責任は負わないとする。誰もが自らを正当化するが、取引の成立が優先され、そこで働く人々や取引先は取り残されている印象を受けた。
事業や雇用を守るためのM&Aの結末が会社の破綻なのだとしたら、あまりに皮肉なことだ。旧知の中小企業社長がうんざりしながら教えてくれた。「毎日のように『会社を売りませんか』というメールが届く」。会社は単なる売買の対象ではない。そんな当たり前のことを、改めて考えさせられる。(潤)
『社喰い』
片田江 康男 著
ダイヤモンド社 刊 1980円(税込)