ベトナム大手SIer、FPT Software(エフピーティーソフトウェア)の日本法人であるFPTジャパンホールディングス(FPTジャパンHD)は、直近4年間で売上高を4倍、従業員数を2倍あまりに増やした。ユーザー企業の近くに事業拠点を構え、システムの要件定義や設計など上流工程の仕事の割合を増やしたことが売り上げ増に結びついた。AIの登場によってソフトウェア開発の生産性が大幅に向上する見込みだが、ド・ヴァン・カック代表取締役社長は「納期やコストが下がることで、個別SIの新しい需要を喚起できる」と話し、トータルで見ればSI市場は拡大し、さらなるビジネスの伸びにつながると見る。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
上流工程を成長の原動力に
――ビジネスの現況を教えてください。
2022年1月にFPTジャパンHDの社長に着任してから、売上高は約4倍、従業員数は2倍あまりの約5000人に増えました。ベトナム本社の25年12月期の連結売上高は前期比9.8%増の13億4000万米ドル(約2144億円)、うち日本向けの売上高構成比は44.8%、金額で約960億円を占めています。グローバルの売り上げ構成比は、日本向けのビジネスが最も大きく、次に米国、アジア太平洋、欧州その他の地域が続いており、当社グループにとって日本市場がいかに重要な市場であるかがお分かりいただけると思います。
――国内でのビジネスをどのようにして伸ばしたのですか。
日本の情報サービス市場は、経済安全保障の観点から新しい海外オフショア開発先を求めており、そうした需要を当社がつかんだというのが大きな流れですが、それだけではありません。特にここ数年はソフトウェアの開発工程のみならず、要件定義や設計といった上流工程の仕事を多く獲得できたことが成長の原動力になっています。上流工程の単価は下流工程より高いため、従業員数の伸びを大きく上回る売上高の成長を達成することができました。
――要件定義や設計を担うということは、ユーザー企業との直接取引が増えたということですか。
ユーザー企業の事業所に近いところに拠点を構え、伴走型でシステムの設計開発を担えるように心がけています。私が着任したときは全国12~13拠点だったと記憶していますが、今は北海道から沖縄まで17拠点に拡充しました。うち国内で開発を担うニアショア拠点を沖縄、福岡、札幌に置いています。海外で開発してもよいシステムはベトナム本国で開発し、国内で開発してほしいとの要望があるものはニアショア拠点を活用しています。ベトナム本社の日本向けの開発人員は、繁閑期によって波がありますが、1万8000人~2万人の規模でプロジェクトに従事しています。
ユーザー企業との直接取引か、日本の大手SIerなど同業者間での取引かは、ケースバイケースではありますが、日本の主要SIerとは包括的な業務提携を結んだり、合弁会社をつくったりして、良好な関係を保てるよう常に心がけています。
合弁事業で協業を深める
――日本のSIerとの協業について具体例を教えてください。
直近ですと、CAC Holdingsと国内向けにITインフラ構築や運用、ヘルプデスクサービスなどを提供する合弁会社のアップストライドを26年4月に立ち上げ、SCSKとはレガシーシステムの維持やモダナイゼーションを手がける合弁事業COBOL PARKを25年12月に始めています。合弁事業まで至らなくとも、国内主要SIerの開発パートナーとして良好な取引関係にあります。
また、SIerではありませんが、24年4月には、コニカミノルタと複合機向けソフトウェアを開発する合弁会社コニカミノルタFPTソリューションラボを設立していますし、24年12月からはOKIとの間で、中国での合弁事業やASEANほかグローバル市場へのビジネス拡大を視野に協業を進めています。
――AIでプログラム開発の自動化が急速に進む見込みですが、どう捉えていますか。上流工程の割合が増えたとはいえ、開発工程で人員余剰になる危険性はありませんか。
AIが当社の仕事に与える影響は確かに大きいですが、私はさほど悲観していません。AIによって生産性が飛躍的に高まり、納期やコストが下がることで、個別SIの新しい需要を喚起できるとみているからです。開発工程のボリュームが大きい個別SIは、多くのSE人員を必要とすることから費用と納期が長くなり、ITの投資余力があるユーザー企業に限られる傾向にありました。
仮にAIで生産性が2倍に高まれば、納期やコストで二の足を踏んでいたユーザー企業の需要を刺激し、個別SIの案件が増える可能性があります。当社の開発プロジェクトでもAIを一部活用していますが、すでに生産性が2倍に高まったケースが出てきています。
――AIを前提とした開発プロセスへのスキル転換が求められますが、どのように取り組んでいますか。
当社グループでは、「探索」「拡張」「標準化」「自動化」「ネイティブ化」の5段階の成熟度モデルを策定しており、全社員に向けて成熟度を高めるための教育プログラムを用意しています。探索はまずは使ってみる段階、拡張はAIを活用して個人の生産性を高める段階、標準化はデータやアーキテクチャーを標準化し、AIガバナンスを確立する段階です。日本法人では、部門によって多少のバラツキはありますが、おおむね標準化の段階まで来ています。
今後は、早いタイミングでAIエージェントが業務を実行して価値創出を行う自動化、AIを中心に経営全体を再設計するネイティブ化の段階へ進んでいきます。ベトナム本社でも同様にAI成熟度を高めており、標準化や自動化、ネイティブ化へとステップアップすることで生産性を飛躍的に高め、ベトナムオフショア開発の有用性を高めていきます。
脱レガシーや内製化を支援
――AI活用によって、埋もれていた需要を呼び起こせるとのことですが、例えばどのような案件の増加を見込んでいますか。
メインフレームなどレガシーシステムのソースコード解析や影響範囲の調査は、AIが得意としている領域だと思います。日本の情報化の歴史は古いですから、塩漬けになっているレガシーシステムが意外に多く、設計に携わった技術者が退職したり、度重なるシステム改修で当初の設計図が実態と合っていなかったり、そもそも設計図が残っていなかったりするケースで、AIは威力を発揮します。
日本のSIerはユーザー企業のレガシーシステムのメンテナンスを担っていることが多いので、当社と協業して、AIを駆使したレガシーシステム刷新をともに提案していこうと働きかけています。従来の数分の一のコストと時間で刷新ができるとなれば、脱レガシーに踏み切るユーザーが増えると見ています。
――AIによってユーザー企業の内製化のハードルが下がるとの見方もあります。
売り上げや利益に直結する領域に関して、自社で情報システムをコントロールしたいと考えるユーザー企業は増えていると思います。システムの保守運用や、間接的な業務のシステムは外部のSIerに任せたとしても、価値創造の中核となるシステムについては、内製化によって迅速かつ柔軟につくり変えられるようにする。AIを使った内製化は、企業の競争力や外部環境への適応力を高めるのに役立ちますし、当社はユーザー企業の内製化支援ニーズにも積極的に応えていきます。この7月には、ベトナム本社が伊藤忠商事の香港IT子会社と協業して、伊藤忠グループの内製型イノベーション推進組織「Global Tech Center」の設立を発表しています。
――日本法人の業績目標を教えてください。
向こう3年で足元の年商1000億円規模から1600億円に伸ばすことを念頭に置いています。国内のIT投資は、AIトランスフォーメーション需要やAIによる生産性向上が相まって堅調に推移すると見ており、並行して、日系企業がASEAN成長市場に進出する際にFPTソフトウェアグループとして伴走していくビジネスにも力を入れていきます。ベトナム国内はもとより、ASEAN各地に拠点を展開していますので、日系企業とグローバル規模で協業することでビジネスを伸ばします。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ベトナム本社にソフト開発エンジニアとして入社した。現場でSIプロジェクトを担っていたときは、品質を維持し、納期を守るために「『もっと多くの人材を配属してくれ。もっとよい開発環境を整えてくれ』と、たびたび上司に要求していた」と、当時を振り返る。品質と納期を守ることは、ユーザー企業のビジネスの成長に不可欠であり、同時に自らの成長にもつながると考えていたからだ。
後に本社の最高デリバリー責任者(CDO)や最高品質責任者(CQO)の役職に就くと、今度は部下から人材や環境を求められた。経営者として会社とユーザーの利益のバランスをとらなければならないのだが、場合によっては「自社の利益が薄くなる状況でも品質や納期を優先してきた」と話す。
今は日本の顧客企業の成長こそが、日本法人の成長につながると捉え、品質の担保とプロジェクトの完遂に強いこだわりをもって仕事にあたっている。
プロフィール
ド・ヴァン・カック
(Do Van Khac)
1976年、ベトナム生まれ。99年、国立ハノイ工科大学卒業。2002年、ベトナムFPTソフトウェア入社。14年、副社長兼最高デリバリー責任者(CDO)。16年、最高情報責任者(CIO)兼最高品質責任者(CQO)。18年、FPTジャパンホールディングスCDO。20年、FPTソフトウェアCDO兼グローバルP&L部門本部長。22年、FPTジャパンホールディングス代表取締役社長に就任。
会社紹介
【FPTジャパンホールディングス】ベトナム大手SIerのFPT Software(エフピーティーソフトウェア)の日本法人として2005年に設立。従業員数は約5000人で、北海道から沖縄まで全国17拠点を展開している。傘下の事業会社としてFPTソフトウェアジャパンやFPTコンサルティングジャパン、FPTニアショアジャパンなどを運営。