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ジャック・プリントン氏が語るMacWORLD EXPO'90報告  マルチメディア開花 秋にシステム7.0発表か

1990/08/27 18:45

 今年も米国ボストンで8月8日から4日間「マックワールド・エキスポ'90」が開催され、盛況のうちに幕を閉じた。今回は、マルチメディア関連の商品のみが目についたショーであったが、「マックワールド・エキスポ」の概要とアップル社の周辺情報について、マルチメディアにも詳しいジャック・プリントン氏(ジャパンエントリー社長)に語ってもらった。

マックの最新動向

 統計によるとマッキントッシュの出荷台数は、全世界で約420万台になっている。この数字は、インテルのCPUを搭載しているIBM系パソコンの出荷台数の約一割にあたり、また日本国内のパソコン出荷台数に相当する。出荷台数から見てもマックのハードウェア市場への影響力は、日本の人々が想像しているよりもはるかに大きいものがあることがわかる。

 アップルの情報としていま最もホットなのは、最新のオペレーティングシステムであるシステム7.0がいつごろ発表になるかという点である。このシステムの内容については、1年程前から業界内で情報がとびかい、少なからず知られている。今回のマックワールドで、その発表はなかったが、今年の秋に1000ドル以下のローエンド・マッキントッシュをだすのに併せて、システム7.0が発表されるだろうと予想されている。

 そして最近、公になったことの一つに、アップルからスピンアウトしていたマッキントッシュの強力なソフトハウスであるクラリスと、ここにきてよりをもどしたという事実がある。今後ハードメーカーはハードウエアの優劣だけでは競争に勝つことができない、ソフトウェアをコントロール出来なければ生き残れない、というアップルの考えからクラリスに再度近づいたのだ、と解釈することができる。

 この動きはアップルがマイクロソフトのWindows 3.0に大いなる脅威を感じている証拠といえる。

 一時期、クラリスはWindows 3.0対応のアプリケーションソフトを開発しているとうわさされたが、アップルはそのクラリスを自陣営に引き入れたというわけである。

マックワールドの傾向

 去年1月のマックワールド/サンフランシスコからスタートしているものとしてマルチメディア、24ビットカラー、CD-ROMの標準デバイス化という動きがある。

 1年程前までは、マルチメディアといえば商品が少なくテストグラフィックス以外にハイパーカードでビデオ・アニメ・音声を扱う程度の物しかなく、アップルはマルチデメィアの啓蒙に苦労していた。しかし、去年の秋に画期的な商品が発表され、マルチメディアが人々の関心を集めることになる。

 ビデオの編集をマック上で行うその商品は、ビデオ1秒間30コマを1コマ1コマワープロを扱う感覚で行ってしまう。これこそマルチメディアだ、と多くの雑誌にも取り上げられた。そして今回のマックワールドは、このマルチメディアだけが目につくショーになっており、どこのブースにいっても24ビットカラーディスプレイがあり、デジタルビデオがあり、CD-ROMがあるという会場風景となった。

 目についた商品では、ハイパーカードのクローン商品としてシリコンビーチ社のスーパーカード1.5がある。シリコンビーチ社は昨年度1000万ドルの売り上げがあったのだが、今年の春にページメーカーを販売しているアルダス社に吸収合併されている。

 富士通のFM TOWNSにバンドルされるとのうわさがでていた。同様のハイパーカード・クローンにドイツの企業が開発しスピネイカー社が販売しているスピネイカー・プラスがある。特徴はWindows 3.0とUNIXのバージョンを取りそろえていることで、サン・マイクロシステムズ社がこのUNIX版をバンドルすることが決定済みで近々発表の予定である。ほかにも松下が1200万ドルで買収したOWL社がだしているガイドがある。

具現化するマルチメディア市場

 米国ではハイパーカード上で動くスタックウェアがとても普及している。アニメを使い視覚的でたのしいゲームやゲーム的ソフトがその主流である。エンターテイメント(遊び)とエデュケーション(教育)からきた言葉で、エデュテイメントとそれらは呼ばれるようになっている。

 例えば、子供たちがパソコンを使い、自分がシェークスピアのマクベスになってゲームをすすめていく。ゲームを楽しみながら学習効果も同時に期待できるのである。エデュテイメントは、スティーブ・ジョブズの当初のビジョンを具現化したものといえる。

 彼はかつて、「テレビゲームを批判する人々がいるがテレビゲームのどこがいけない、任天堂のマシーンを使うことで子供たちがコンピュータに親しむことはいいことではないか」と語ったことがある。パソコンを使い、遊んで学習する、ジョブスの考えていたパソコンの理想像がいま現実化している。

 マルチメディア市場でプレゼンテーションが大きなものになっているが、そのほかエンターテイメントと教育以外に拡大傾向にあるのがトレーニングの分野である。

 8月初め、オーセウェア社が、世界最大の航空会社であるアメリカン航空と360万ドルの商談を成立させた。これは社員5万人をトレーニングするソフトの開発の受注である。このトレーニングは当然マルチメディアによってなされるが、あちらこちらで同様の話が持ち上がっており、日本にもこの波は押し寄せるものとみられる。
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