Special Feature
データセンター需要膨張する Colt DCSの戦略から展望する市場の行方
2021/10/28 09:00
週刊BCN 2021年10月25日vol.1896掲載

Coltデータセンターサービス(Colt DCS)の日本におけるデータセンター拡張が勢いを増している。今夏には京都、大阪、奈良の3府県を指す京阪奈地区の「けいはんな学術研究都市(関西文化学術研究都市)」で新たなデータセンターの建設を開始。さらに今後は既存の印西データセンター(千葉県)での新棟設置、東京北部での新サイト開設も予定しており、京阪奈を含めた3サイトの合計で100メガワット(MW)以上の電力供給量を確保する。一見強気とも思える拡張方針の真意を探ると、いわゆる「ハイパースケーラー」が抱える旺盛なニーズへの戦略が浮かび上がる。さらに、現在ITインフラとして欠かせない存在となっているデータセンターに対して、ユーザー企業はどう向き合うべきかのヒントも隠れているようだ。
(取材・文/渡邉利和 編集/藤岡 堯)
現在のデータセンター需要のトレンドに関してColt DCS不動産事業本部の郡司惠太・データセンタービジネス開発部長は「クラウドシフトは思ったほどには広がっていない」と指摘。新型コロナ禍の影響もあり、「自分たちの手の届かない場所にシステムを置くことに不安を感じるユーザーが多いのではないか」とし、従来型のデータセンターへのニーズは根強いとの見方を示す。
ただ、メガクラウドを中心としたハイパースケーラーの需要はさらに旺盛で、新しいデータセンターを建設してもすぐに埋まってしまうという活況ぶりだ。アジア営業本部の近藤孝至・プロダクト&セールスダイレクターは「従来型のデータセンターも順調だが、ハイパースケール・データセンターはさらに大きく伸びており、巷で言われる『二桁成長』を実感できている」と手応えを語る。
同社が言うハイパースケーラーは事業内容ではなくデータセンターに対するニーズに着目しており、「数MW規模のニーズを持つユーザー」のことを指す。データセンターのマシンルームをワンフロア丸ごと借り切ってしまうような規模のユーザーだと考えればいいだろう。現実としては、メガクラウドなどと呼ばれる主要クラウド事業者が中心だが、SaaS事業者なども含まれるようだ。
こうしたハイパースケーラーは、今後5年以内に10~20MWクラスのデータセンターを必要とすると見込まれており、これが拡張計画の裏付けとなっている。ハイパースケーラーの需要について近藤プロダクト&セールスダイレクターは「10~20MW程度の規模を必要としている企業が何社か存在する。さらに1カ所ではなく複数箇所に分散させて冗長性を確保したいニーズもあり、指数関数的にデマンドが伸びている」という。
データセンター事業者の各社がトレンドに対応して積極的な拡張計画を作成する中でも「当社の拡張計画はかなりアグレッシブなものに見えるが、これが過剰だとは思っていない」(近藤プロダクト&セールスダイレクター)と強調する。
現在地球上に存在するデジタルデータの8~9割が直近数年で生成されたものだと言われていることもあり、まさに今データセンター需要が爆発的な拡大期に入ったところだとみることもできそうだ。
京阪奈データセンターの着工発表に当たり、Colt DCSは国内でのデータセンター事業の新たなスキームとして、親会社であるフィデリティ・インベストメンツと三井物産が新たに設立したジョイントベンチャー(JV)とのパートナーシップも発表している。京阪奈を含め、このスキームに基づくデータセンターは土地や建物を含むデータセンターのオーナーシップはJVが持ち、Colt DCSはデータセンターの設計や完成後の運用、顧客への販売などをサービスプロバイダとして提供する形になる。
このスキームに関し、APAC代表を務めるポードレイグ・マコーガン・バイスプレジデントは「従来の自社データセンターとの違いは『データセンターの持ち主は誰か』という部分だけ。過去20年以上にわたって培ってきた運用ノウハウなどはそのまま活用される」とし、運用そのものに大きな変化はないとする。
あえての「インフラ特化」でハイパースケーラー取り込む
データセンター市場では、主にエンタープライズユーザーのニーズを見込んでマネージドサービスなどを積極的に展開するアプローチがある。例えば、システムインテグレーターなどが運営するデータセンターでは、インフラからサーバー、アプリケーション、マネージメント、インテグレーションまで垂直方向のレイヤーでビジネスを展開することが一般的とされている。一方で、Colt DCSはデータセンターのインフラ部分に特化した「水平展開」を行なっている点に特徴がある。つまり、マネージドサービスには手を伸ばさず、インフラを提供するのみというスタンスを崩さない。ややもすると、サービス面で劣るとの評価を受けかねないが、実はこの特徴がハイパースケーラーを呼び込むためのセールスポイントとなる。
マコーガン・バイスプレジデントは「ハイパースケーラーはマネージドサービスは不要。彼らがほしいのは純粋なインフラ、ダークファイバーや電力、冷却能力、セキュリティなどだ」とし、自社の事業特性とハイパースケーラー側のニーズがうまく合致していることをアピールする。さらに、ハイパースケーラーなど高いレベルの運用を求めるユーザーのニーズに応じてきた経験から得られる知見やノウハウは別のデータセンターへ水平展開され、そこでも新たな需要を獲得できる。
インフラ部分に特化した戦略を取ることから、Colt DCSは「キャリア・ニュートラル」である点も特徴だ。「キャリア・ニュートラルを標榜するデータセンター事業者は多いが、実態としてはそうではない例があったり、構内配線が高額になったりすることがある。我々はクロスコネクトの費用を抑え、どこのキャリアを使ってもらっても大丈夫である点を訴求している」(近藤プロダクト&セールスダイレクター)と自信を見せる。
災害、山岳地の多い日本 建設地選定も難しく
自然災害の多い日本で大規模データセンターを運用するのはさまざまな苦労がある。郡司部長はデータセンターの災害対策として最も重視するポイントは「立地の選択」だという。都市部で暮らしていると、あまり意識することはないかもしれないが、日本は国土の大半が山岳地であり、データセンターの建設に向いた平野部はそもそも少ない。さらに活断層や地盤の液状化の懸念がある場所を避ける必要もある。こうした災害対応に直結する条件に加えて、郡司部長は「IX(Internet Exchange)との接続」も重要なポイントとして挙げる。クラウド時代を迎え、ネットワーク接続の重要性はさらに高まっているが、「単にネットワークが繋がればいい/インターネット接続できればいい、というレベルではなく、IXとの接続性が極めて重要だ」とみる。
これらの条件に加え、ビジネス面からユーザーが多い場所も考慮すれば、必然的に東京・大阪が候補の中心になってしまう。複雑な条件を満たす場所選びは困難で「用地を1カ所確保するために200カ所以上の候補地を調べ上げる」こともざらだ。先に触れたJVのスキームでは、国内に確固たる情報網を持つ商社である三井物産が参加しており、同社の情報ネットワークを通じてデータセンターに適した立地を探しやすい利点があるようだ。競合を含め、データセンターの建設が急速に広がる中、候補地選定の段階で激しい争いが繰り広げられていると言えるだろう。
取材後記
ハイパースケーラーと言われる大規模ユーザーを中心に、データセンター需要は今後年率二桁の成長を5~10年継続すると予想されている。現時点ではエンタープライズユーザーが減少傾向に転じたとまではいえないものの、現在のメガクラウドの勢いを見ると、今後さらに多くのユーザーやサービスがメガクラウド上に集約されていくことになると思われる。SaaS事業者についても、今後はメガクラウド上でサービスを提供する方向へシフトしていくのではないか。ビジネスの全体的な傾向として、メガクラウドへの巻き取りが進行していくことになれば、現在は独自のデータセンターを運営しているSIerなども、将来的にはメガクラウド上に環境を構築する例が増えていくことも考えられる。
そうなれば、インフラ部分の運用はデータセンターも含めてすべてメガクラウドを通じて行い、足りない機能やサービスはメガクラウド上でサードパーティーからの提供を受ける、というモデルが一般化することもあり得る。この動きが本格化すれば、インフラに特化したデータセンター事業を展開するColt DCSの特徴はさらに生きてくるだろう。
半導体の供給不足や増大する電力需要に対する供給不足の懸念など、将来的な懸案事項もさまざまあるが、中長期的には爆発的に増大し続けるニーズを背景に積極的なデータセンター投資が継続されることは間違いない。この投資が一巡したとき、国内企業のデータセンター利用の在り方が大きく変貌していた。そんな予感も漂ってくる。

Coltデータセンターサービス(Colt DCS)の日本におけるデータセンター拡張が勢いを増している。今夏には京都、大阪、奈良の3府県を指す京阪奈地区の「けいはんな学術研究都市(関西文化学術研究都市)」で新たなデータセンターの建設を開始。さらに今後は既存の印西データセンター(千葉県)での新棟設置、東京北部での新サイト開設も予定しており、京阪奈を含めた3サイトの合計で100メガワット(MW)以上の電力供給量を確保する。一見強気とも思える拡張方針の真意を探ると、いわゆる「ハイパースケーラー」が抱える旺盛なニーズへの戦略が浮かび上がる。さらに、現在ITインフラとして欠かせない存在となっているデータセンターに対して、ユーザー企業はどう向き合うべきかのヒントも隠れているようだ。
(取材・文/渡邉利和 編集/藤岡 堯)
現在のデータセンター需要のトレンドに関してColt DCS不動産事業本部の郡司惠太・データセンタービジネス開発部長は「クラウドシフトは思ったほどには広がっていない」と指摘。新型コロナ禍の影響もあり、「自分たちの手の届かない場所にシステムを置くことに不安を感じるユーザーが多いのではないか」とし、従来型のデータセンターへのニーズは根強いとの見方を示す。
ただ、メガクラウドを中心としたハイパースケーラーの需要はさらに旺盛で、新しいデータセンターを建設してもすぐに埋まってしまうという活況ぶりだ。アジア営業本部の近藤孝至・プロダクト&セールスダイレクターは「従来型のデータセンターも順調だが、ハイパースケール・データセンターはさらに大きく伸びており、巷で言われる『二桁成長』を実感できている」と手応えを語る。
同社が言うハイパースケーラーは事業内容ではなくデータセンターに対するニーズに着目しており、「数MW規模のニーズを持つユーザー」のことを指す。データセンターのマシンルームをワンフロア丸ごと借り切ってしまうような規模のユーザーだと考えればいいだろう。現実としては、メガクラウドなどと呼ばれる主要クラウド事業者が中心だが、SaaS事業者なども含まれるようだ。
こうしたハイパースケーラーは、今後5年以内に10~20MWクラスのデータセンターを必要とすると見込まれており、これが拡張計画の裏付けとなっている。ハイパースケーラーの需要について近藤プロダクト&セールスダイレクターは「10~20MW程度の規模を必要としている企業が何社か存在する。さらに1カ所ではなく複数箇所に分散させて冗長性を確保したいニーズもあり、指数関数的にデマンドが伸びている」という。
データセンター事業者の各社がトレンドに対応して積極的な拡張計画を作成する中でも「当社の拡張計画はかなりアグレッシブなものに見えるが、これが過剰だとは思っていない」(近藤プロダクト&セールスダイレクター)と強調する。
現在地球上に存在するデジタルデータの8~9割が直近数年で生成されたものだと言われていることもあり、まさに今データセンター需要が爆発的な拡大期に入ったところだとみることもできそうだ。
京阪奈データセンターの着工発表に当たり、Colt DCSは国内でのデータセンター事業の新たなスキームとして、親会社であるフィデリティ・インベストメンツと三井物産が新たに設立したジョイントベンチャー(JV)とのパートナーシップも発表している。京阪奈を含め、このスキームに基づくデータセンターは土地や建物を含むデータセンターのオーナーシップはJVが持ち、Colt DCSはデータセンターの設計や完成後の運用、顧客への販売などをサービスプロバイダとして提供する形になる。
このスキームに関し、APAC代表を務めるポードレイグ・マコーガン・バイスプレジデントは「従来の自社データセンターとの違いは『データセンターの持ち主は誰か』という部分だけ。過去20年以上にわたって培ってきた運用ノウハウなどはそのまま活用される」とし、運用そのものに大きな変化はないとする。
この記事の続き >>
- あえての「インフラ特化」でハイパースケーラー取り込む 「キャリア・ニュートラル」も特徴
- 災害、山岳地の多い日本 建設地選定も難しく 「立地の選択」に加え「IX(Internet Exchange)との接続」も重要なポイント
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