店頭流通

苦戦するパソコン販売 4-6月は台数・金額ともに前年割れ

2002/08/12 16:51

週刊BCN 2002年08月12日vol.953掲載

 厳しい夏商戦だった――。7月月間のBCNランキングによれば、デスクトップの前年比が台数ベースで52%、金額ベースで58%、ノートパソコンは台数で62%、金額で65%だった。これは6月の水準とほぼ同じで推移しており、今年の夏商戦(6―7月)は、台数・金額ともに前年比60%台で終わった。電子情報技術産業協会(JEITA)の発表によれば、4―6月の法人向け出荷台数は、前年比84%で、個人向け同様、前年割れとなった。(安藤章司)

●個人向けPC出荷は約80万台  

JEITAは、今年4-6月の個人向けパソコン出荷台数が前年比91%、同法人向けが84%と発表した。

 気になるのは、個人向けパソコンの出荷ベースの前年比と、実売ベースの前年比にギャップがある点だ。JEITA幹部は、「個人向けの91%はあくまでも出荷ベース。実売は30%近く落ちている可能性がある」と打ち明ける。

 同期間(4-6月)の実売ベース(BCNランキング)では、前年同期比の台数が71.9%、金額が73.6%で、JEITAの推計とほぼ類似した数値となった。JEITAの出荷統計では、4-6月の出荷台数は242万9000台で、このうち個人向け出荷の比率が43%、法人向け出荷が57%。この比率から推計すると、同期間の個人向け出荷台数は約104万4400台である。

 前年同期(01年4-6月)のJEITA統計による出荷台数は279万3000台。このうち約4割が個人向けの出荷だとすると、前年同期の個人向け出荷台数は、おおむね約111万7200万台となる。これにBCNランキングの「前年比71.9%」を重ね合わせて推計すると、今年4-6月の実売台数はおよそ80万3200台となる。JEITAの出荷台数との差分は約20万台。

 荒っぽい推計だが、約20万台分は“流通在庫”として市場に残っている可能性が高い。 メーカー幹部は、「6月と7月の夏商戦は不振だった。従って、8月の出荷台数は相当絞り込む計画」としているが、この夏商戦の“余剰在庫”を8月から10月にかけて売りさばく必要がある。

 メーカー関係者は、「どのメーカーも、出荷台数の見通しを立てるために、あらかじめ『最低、これだけは販売する』という“コミット”(約束)を販売店に迫っている。販売店は商材を手に入れるために、やむを得ず数字を出す。しかし、実売がともなわないため、出荷数との格差が開く」と指摘する。

●JEITA幹部、「非常に厳しい」

 7月月間のベンダー別のシェアで見ると、デスクトップ部門で、ソニーが台数シェア28.8%、金額シェアで32.9%と、相変わらずトップ。

 2位のNECは台数21.7%、金額22.4%、3位のアップルは台数14.7%、金額13.9%と続く。ノート部門は、ソニーが台数シェア27.7%、金額シェア28.3%、2位はシャープで台数15.5%、金額14.2%、3位の富士通は台数15.0%、金額15.2%と続く。

 ノート部門では、東芝が4位の台数シェア13.8%、金額シェア14.0%と堅調にシェアを伸ばす一方、NECが5位で台数10.1%、金額10.1%と、東芝の後塵を拝する不調ぶり。東芝に比べて、ノートで目新しい商材を投入できなかったのが主な敗因だ。

 厳しい市況が続くと、強いベンダーと弱いベンダーとの格差が大きくなる。JEITAでは、個人向けの需要拡大のキーワードとして、「家庭での2-3台目の需要喚起」を挙げる。

 だが、2-3台目の需要を掘り出す力をもった商品を投入できるベンダーの数が少ない。これが事態をより深刻なものにしている。

 JEITAは、今年度(03年3月期)のパソコン出荷台数予測を、期初予測どおり「前年度比4%増の1110万台、金額ベースで3%増の1兆8245億円」としている。

 JEITA幹部は、「第1四半期の段階で、おいそれと下方修正できない。期初予測どおり達成できるか、と言えば、『非常に厳しい』と言わざるを得ない」と話す。

 このまま前年割れが続けば、中間期(02年9月期)で下方修正する可能性もある。

●サーバー需要にも悪影響与える

 一方、前年比84%となった4-6月期の法人向けのパソコン出荷台数は、IA(インテル・アーキテクチャ)サーバー(主にウィンドウズサーバー)の販売台数にも悪影響を与える。

 NECソリューションズ・クライアント・サーバー営業本部の山内久典本部長は、「4-6月のIAサーバー市場全体で、前年比約90%の販売実績だった。住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)などe-Japan関連の官公庁需要は好調だったが、民間の情報化投資の減退が足を引っ張った」と、IAサーバーの落ち込みを分析する。

 IAサーバー流通大手のキヤノン販売・コンピュータビジネス企画課の鈴木徹課長代理は「クライアントの2ケタ減が続くなか、『サーバーだけもってこい』という商売はあり得ない。クライアントとIAサーバーともに連動する部分が多い」。

 大塚商会・マーケティング本部販売企画課の野田正夫係長は「企業向けのクライアント販売が落ちれば、サーバーも連動して落ちる」と、クライアントだけでなく、IAサーバーも含めて不調に陥っていることが分かる。

 日立製作所・インターネットプラットフォーム事業部マーケティング統括の木村政孝本部長は、「IT(情報技術)産業を底辺で支えるクライアント(=パソコン)やIAサーバーの販売が鈍化しているということは、この上で動くソリューションビジネスが活性化していない証拠」と、IT産業全体の成長が減退する兆候だと警鐘を鳴らす。
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