店頭流通

ハリウッドがカギを握る次世代DVD規格争い 米パソコン業界も対応割れる

2005/10/24 16:51

週刊BCN 2005年10月24日vol.1110掲載

 HD(高精細)テレビ時代をターゲットに、現在のDVDよりもさらに記録容量をアップさせた次世代DVD。現在、業界標準の座を目指して、2つの規格の争いがヒートアップしている。主要家電メーカーやコンテンツ産業を味方につけた「ブルーレイ」と、パソコン業界の重鎮を味方につけた「HD DVD」。米国でもこの勝負の行方に注目が集まっている。

 現在、家電メーカーやゲーム会社、そしてテレビや映画などのコンテンツ産業が力を入れているのが、現行のテレビよりもより高精細な映像の表示を可能とするHDテレビだ。

 市場調査会社の米インスタットが今年春に発表した調査によれば、今年末までに全世界で1550万世帯がHDテレビを導入し、2009年までにはその数は5200万世帯に達すると予測している。

 このHDテレビ時代のカギを握るのが、コンテンツの保存媒体である光ディスクの次世代規格だ。HDテレビ時代には映像がより高精細となるため、現行のDVDよりもより多い保存容量が必要となる。そのため、HDテレビ時代の次世代DVD標準を目指して、家電メーカー各社が技術開発競争にしのぎを削っている。

 業界では、ソニーや松下電器産業らが中心となって推進しているブルーレイと、東芝が中心になって推進している「HD DVD」の2つの規格が互いの覇権を賭けて争っている。両規格に互換性はなく、片方の規格が業界標準として受け入れられた場合、もう片方は緩やかに消滅の道をたどることになるだろう。

 第1世代の製品で現行DVDの5倍以上の25ギガバイトという容量を持ち、ノートパソコン向けの薄型ドライブ開発に必要な小型化技術でリードするのがブルーレイ陣営だ。現行DVDと直接の上位互換性がなく、やや製造コストも高くなるという難点を抱えているが、これは今後の技術革新や量産効果で十分にカバーすることが可能だろう。一方のHD DVDは片面1層で15ギガバイトと記録容量の点でブルーレイの後塵を拝すが、既存のDVD製造装置をそのまま流用することで低コストでドライブ生産が可能で、前世代の製品と互換性を持っている点が特徴だ。

 技術的な優位度でいえば、ブルーレイ陣営に軍配が上がるといっていいだろう。だが、技術力でのリードがそのまま勝敗につながらないのがIT業界の特徴でもある。古くはビデオテープのVHSとベータにさかのぼる。画質でライバルを上回っていたベータ陣営だが、価格やコンテンツの面で最終的にVHSに業界標準の座を奪われてしまった。同様の話は数え上げればきりがない。こうした背景もあり、両陣営ではまず主要コンテンツ企業の囲い込みに奔走している。特にカギとなるのがハリウッドに代表される米映画産業の動きだ。

 当初、ブルーレイ陣営にはウォルトディズニーと20世紀フォックス、そしてソニー傘下のソニーピクチャーズ、HD DVD陣営にはユニバーサルスタジオ、ワーナーブラザーズ、パラマウントピクチャーズという形で、業界が真っ二つに割れる状態となっていた。だが、HD DVD陣営の製品リリースが当初の年内から来年前半へと遅れることが明らかとなるなか、HD DVD陣営のパラマウントが9月末にブルーレイのサポートも表明した。これにより、主要映画会社6社のうち、ブルーレイ陣営が4社のバックアップを得る形でHD DVD陣営に差をつけている。

 さらに06年初旬にはブルーレイドライブを標準搭載したソニーの次世代ゲーム機「プレイステーション3」が登場することになり、ブルーレイ陣営が一気に勢いづく形となった。

 だが10月初旬にパソコン業界の重鎮インテルとマイクロソフトがHD DVD支持を表明したことで、事態はよりいっそう混迷の度合いを増してきている。すでにブルーレイ支持を表明していた米パソコンメーカー大手のデルとヒューレット・パッカード(HP)は2社のHD DVD支持を非難するものの、インテルのドナルド・マクドナルド副社長は、「統一規格の方が望ましいが、あえて選択するならパソコンでのコピーが容易なHD DVDのほうがユーザーにとってメリットがある」と話す。

 強力なコピー防止技術や高精細映像でのDVDとの差別化など、映画産業の次世代DVDに対する期待は高い。家電メーカー側も、新たな製品需要を掘り起こすためのチャンスとなる。さまざまな思惑の渦巻くなか、本格的な戦いは06年に幕を開けることになる。(鈴木淳也)
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