店頭流通

iTMSの閉鎖性をヤリ玉に iPodのソフトビジネスに仏議会が“待った”

2006/04/24 16:51

週刊BCN 2006年04月24日vol.1135掲載

【ニューヨーク発】いまやiPodは社会現象とさえいえるだろう。しかしiPodが他の業界からも注目を集め続けているのは、ヒット商品だからというだけではなく、それが持つ新しいビジネスモデルの可能性を秘めているからにほかならない。

 それは「ハードウェアを販売しながらも収益構造はソフト部分で」というビジネスモデルだ。もちろんiPodはハードウェアとして販売されているがアップルが収益の柱としているのはiTMSでの音楽ソフトの販売であり、その魅力的なサポートがあるからこそ、iPodはヒットした。現時点でiPodは既に単体のハードウェアとしてではなく、iTMSが提供する音楽コンテンツとそれらをシームレスに繋げるiTMS/iTunesという環境を含めたトータルな商品/サービスとしてユーザーに受け入れられている。

 実はこのビジネスモデルはすべてのハードウェア/ソフトウェアメーカーが期待を寄せているといい、特に音楽業界からは大きな信頼を集めている。その理由は、このビジネスモデルこそが、長い間彼らの頭を悩ませている偽造・コピー製品を排除できるからだ。現時点ではiTMSで購入した楽曲はiPod、もしくはiPod互換の携帯電話でしか視聴することができない。長らく不正コピーに悩まされてきた音楽業界はこの制限を好意的に受け止め、積極的にiTMSへ楽曲を提供し続けている。

 順風満帆に見えるiPodビジネスだが、いささか不穏な動きもみえる。先日のフランス(仏)議会では、iPodでしかiTMSを利用できないという制限を取り払うべきだという法案が可決されたのである。ある種の独占禁止法対策にも見えるこの法案だが、詳細をチェックすると問題も多く、この決定に反対するIT分野や法律の専門家は多い。

 さらには技術面での発展を停滞させるものだということで各方面の技術者や経済学者などからも懸念の声が上がっている。以前に規制の対象となった、大音響で視聴すれば難聴になるという問題も、事実上アップルを標的にした難癖と見られており、仏政府のアップルへの対応は差別的と言わざるを得ない。この「iTMS公開法案」により、アップルは仏におけるiTMS事業をやめるのではないかという推測までされ、今後のこの種のビジネスモデルの成長を停滞化させるものになりかねない。

 アップルはiPodをより高機能化させるべく、携帯電話機能付きのものやテレビを視聴できるようにする計画もあるとうわさされている。ゲームを消費者との媒体とする任天堂やソニーも同様であり、ソニーは既にPS3のオンラインサービスを開始することを明言した。今後もさらに多くの企業がこのビジネスモデルへ参入をしてくるだろう。

 携帯電話事業はその成り立ちからしてハード+ソフトのビジネスモデルの元祖ともいえ、ノウハウを持つ各キャリアと携帯電話機メーカーも強力なプレーヤーとして名乗りを上げてくるに違いない。この「ハード+ソフト」のビジネス路線が当たり前のこととなれば、そう遠くない将来には「ハードウェア」「ソフトウェア」という言葉は、お互いの意味を併せ持つようになっていくのかもしれない。
田中秀憲(ジャーナリスト)
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