大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>12.日本HP、コンシューマ市場へ再参入の背景

2006/08/14 18:44

週刊BCN 2006年08月14日vol.1150掲載

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が、コンシューマ向けノートPC「Pavilion(パビリオン)」シリーズを国内投入してから約2か月が経過した。

 発売と同時に用意した2モデル500台ずつの限定機種は、特別な告知や、実際に製品を触われる場所がなかったにもかかわらず、わずか10日間で完売。順調な滑り出しを見せた。さらに、7月に入ってからは新聞広告を展開し、個人、SOHOユーザーなどにアプローチ。一部企業との提携によって、実際の製品の展示スペースを確保するなど、徐々に動きを活発化させている。

■慎重な姿勢はトラウマの現れか

 だが、同社は慎重な姿勢を崩していない。あくまでもネット直販に限定し、量販店ルートでの展開を見送ったほか、ラインアップはノートPCの2モデルに限定し、デスクトップPCの投入は来年以降としている。また、米国では低価格ブランドとして人気がある、もうひとつのコンシューマブランド「Presario(プレサリオ)」の国内投入も計画していない。

 では、なぜこれだけ慎重な姿勢を見せるのか。

 それは、2002年にコンシューマ市場から撤退した際に、多くの犠牲を払った経験があるからだ。

 なかでも過剰に膨れ上がった流通在庫の処分に追われ、結果として大幅な赤字を計上した経験は、コンシューマ事業への再参入でトラウマとなっていた。

 もともと、見込み生産を前提とするコンシューマPC市場において、海外生産を行っていた日本HPは、不良在庫を抱えやすい体質だったといえる。また、02年以前のコンシューマPC市場は、PC本体に数多くのソフトウェアを同梱することが売れ筋の条件となる一方、激しい価格競争に見舞われており、すべてのPCメーカーが、利益なき繁栄ともいえる低価格競争の渦に巻き込まれていた。

 利益を取れない市場環境が改善されない限り、日本HPのコンシューマ市場再参入はなかったはずだ。さらに、市場参入後も利益確保が担保できない限り、事業の継続はない。

■ネット直販の隆盛が後押し

 だが、ここにきて、日本HPがコンシューマ市場に再参入し、戦える条件が揃ってきた。

 ひとつは、ネット直販の浸透である。すでに同社のPC販売のうち、約50%がネット直販によるもの。最大の問題点となっていた、在庫を確保して量販店で流通させる、という手法をとらなくてもよい環境が整ったのである。

 第2の要因としては、ネット直販ではすでに約2割が個人ユーザーであり、これをそのまま取り込める土壌ができあがっていたことがあげられる。

 そして、第3には、数多くのソフトを同梱していることがPCの選択肢ではなくなった点。特に、インターネット利用を想定するユーザーにとっては、ソフトの数は魅力ではなくなった。メーカーとしても、日本固有の余計なコストをかけずに製品投入ができる。

 このほか、再参入可能と判断するいくつかの条件が整ってきたからこそ、再参入を決断したのだ。 最初の滑り出しは順調。だが、本番はこれからだ。慎重な姿勢から、スイッチが入れ替わった時こそ、初めてHPの真価が問われる。
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