大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>45.エプソン、インクジェット事業の新たな一歩

2007/04/16 18:44

週刊BCN 2007年04月16日vol.1183掲載

 「プリンタ事業であれば、競合との差は小さい。だが、産業用途へと発展した途端に、その差は歴然となる」

 セイコーエプソンの碓井稔取締役は、自信満々に切り出した。

 例年、年末になると、エプソンとキヤノンはインクジェットプリンタ市場において、激しい戦いを繰り広げている。印字品質、印字速度、耐候性、小型化、デザインなど、いくつかのポイントで両社は差別化策を打ち出し、互角ともいえる結果を残してきた。

 2社のシェアを合わせると90%以上。いまや、よほどのことがない限り両社の差はつかないし、第3のメーカーが一気にシェアを伸ばす余地もない。仮にキヤノン、エプソンのいずれかが、これ以上シェアを引き上げるとすれば、赤字覚悟の価格戦略を繰り広げるしかないだろう。

 しかし、それはあくまでもインクジェットプリンタ市場における話。舞台を変えると、インクジェット技術の差は歴然というのが、エプソンの論調なのだ。

■応用範囲が広いピエゾ方式

 エプソンのインクジェット技術は、マイクロピエゾ方式。これに対して、キヤノンのバブルジェットと呼ばれる技術はサーマル方式だ。

 ピエゾ方式の特徴は、プリントヘッドに、圧電(ピエゾ)素子を使用している点にある。電圧を加えると歪む素子の性質を利用して、物理的な圧力を加え、インクを吐出する仕組み。一方、サーマル方式は、ヒーターの熱により発生した気泡を利用し、インクを吐出する技術だ。

 吐出できるインクなどが、熱によってコントロールできる液体に限定されるサーマル方式に対して、ピエゾ方式では、素子に加えられた圧力を利用することから幅広い種類の液体を吐出できるという特徴がある。

 ピエゾ方式は、その特徴を生かして、布への捺染や、屋外看板への印字、プリント基板の多層化技術への応用など、産業用途での応用が可能になるのだ。さらに、エプソン独自のマイクロピエゾ方式は、一般的なピエゾ方式と比べて、ヘッドの小型化やインク吐出のコントロール性能面で優れているという特徴もある。

 シャープの亀山第2工場での液晶パネル生産におけるカラーフィルター製造工程でも、エプソンのマイクロピエゾ方式が採用され、低コスト化、高品質化が図られているのもその一例だ。

■産業用途で拡大の可能性が

 セイコーエプソンの花岡清二社長は、インクジェット技術を「当社の中期的な成長を担う中核技術であり、原動力」と位置づける。

 それを現実のものにするには、BtoCとなるインクジェットプリンタとしての用途だけでなく、産業用途におけるBtoB事業の拡大も視野に入れる必要がある。

 先頃発表した新世代マイクロピエゾヘッドは、360dpiという高密度化がクローズアップされがちだが、高速印字、小型化でも大きな威力を発揮する。そして、ピエゾ素材から内製化することによって、安定した品質の実現や応用範囲の拡大(産業用途での利用)へとつなげることもできる。

 エプソンは、次の成長に向けて、インクジェット技術を活用した新たな事業へと一歩に踏み出したといえる。
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