大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>59.業界の枠を広げる携帯電話ビジネス

2007/07/30 16:51

週刊BCN 2007年07月30日vol.1197掲載

 携帯電話業界を俯瞰した場合、その中核をなすのは、携帯電話事業者および携帯電話端末メーカーとなるだろう。そして、携帯電話端末を構成する部品メーカーや、基地局施設関連メーカー、携帯電話向けにコンテンツを配信するコンテンツプロバイダも、業界の一翼を担う企業だといえる。

 しかし、携帯電話業界は、もはやこれだけにとどまらない。そして、業際の広がりはさらに加速することになりそうなのだ。

■携帯関連の新事業が続々と

 例えば、携帯電話の機能として電子マネーやクレジット決済機能が組み込まれているのは周知の通りだ。クレジット事業で先行するNTTドコモでは、今年3月末時点でのDCMXの契約者数か209万、iDの契約数は294万に達しているという。

 こうした電子マネーや決済事業の広がりに伴い、コンビニエンスストアやスーパーも、携帯電話のビジネスとの関係が切り離せなくなってきた。JRの改札口での利用や、ANAの搭乗口での利用も同様である。携帯電話を利用した新たなビジネスやサービスモデルの創出にも期待が集まる。

 携帯電話事業者を巻き込んでいるWiMAXへの展開も、携帯電話業界の枠を広げる役割を担うことになる。PC業界との連動はもとより、モバイル環境での高速データ通信利用の促進は、さらに多くのコンテンツプロバイダの参入を予感させる。

 一方、KDDIなどが総務省の委託研究として取り組んでいるコグニティブ無線通信技術では、3G、WiMAX、無線LANといった各種無線の空きスロットを検知し、最適なネットワークインフラに自動的に接続できるようになり、携帯電話のネット利用でユーザーの利便性を高めることができる。さらに、この技術を進化させることで、端末同士が自律的に接続。基地局を介さず端末間同士での直接通信が可能になる。こうした技術により、これまでにないサービスの創出が可能になるもしれない。

 そのほか、KDDIがNHK放送技術研究所と共同開発中の通信・放送連携サービス輻輳制御技術は、ワンセグ端末の普及、データ放送を使った通信連動番組の増加に対応するものだ。番組内でのプレゼントの応募などによって、一時的に通信にトラフィック負荷がかかる場合の制御技術で、視聴者のアクセス機会損失を防げるなどのメリットがあるという。

■30兆円の市場を形成

 放送との融合が促進されるなか、クアルコムが推進するMedia FLOと呼ばれる新たなサービスにより、携帯電話会社などが編成権を持つ形で、携帯電話に最適化したテレビ放送、音楽放送、キャスティング情報などの多チャンネル配信が可能になる。ここでも、新たな参入事業者が見込まれ、携帯電話事業と連動した新たな対応端末機の開発も促進されるだろう。

 通信・通話料だけの市場規模は約7兆円。これに端末、コンテンツ、設備投資などを加えた市場規模は約12兆円。しかし、そこから派生する事業を含めると、携帯電話産業は30兆円もの市場になると試算される。日本のGDPの約5%を占める規模なのだ。携帯電話業界の広がりは、むしろこれからが本番だといえる。
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