2001年1月、e-Japan戦略がスタートした時から、総務大臣として日本のIT戦略をリードしてきた。世界から大きく遅れていたインターネット接続環境をわずか2年半で劇的に進化させ、行政手続オンライン化関係3法など電子政府・電子自治体の基盤も一気に整備した。「IT利活用」へと進化したe-Japan戦略IIを通じて、日本はどのようなIT国家を目指していくのか。総務省が取り組む施策も、ユビキタスネットワーク社会の実現、アジア・ブロードバンド計画と、ますます広がりを見せている。(小寺利典(本紙編集長)●聞き手、千葉利宏(ジャーナリスト)●取材/文、ミワタダシ●写真)
「ITは日本のリーディング産業」 e-Japan戦略IIを強力に推進
■7つの分野でIT利活用推進 ――e-Japan戦略IIが決まりました。 片山大臣 最初のe-Japan戦略が策定されたのが2001年1月。それを見直して戦略IIができましたが、e-Japan戦略を進めていくうえで総務省としては大きく4つのテーマがありました。当初、一番力を入れなければならなかったのはインフラの整備で、高速、超高速のネットワークの構築を推進。これによって、当初目標としていた高速で3000万世帯、超高速で1000万世帯の利用可能数を大きく上回るインフラを整備できました。一方で、競争政策を進めることで、インターネットの利用料金も大幅に下がってきました。
ところが、IT利活用の方はいろいろなデータを見ても進んでおらず、例えで言うのですが、良い高速道路はできたが、走る車が少ない、良いドライバーもまた少ない、という状況です。これからは、もっと車を走らせることと、ドライバーを育てることが重要であり、戦略IIでは、IT利活用をどう進めるかということで7つの分野を決めて取り組むことにいたしました。
また、今回、総務省が強く推して戦略IIに入れたものが、ユビキタスネットワークです。パソコンだけでなく、何でも、どこでも、何時でもネットワークにつながるユビキタスネットワーク社会を、日本発の新IT社会として世界に発信していこうということです。日本が特に強い携帯電話とか、情報家電とか、光通信とか、そうしたものを利用してユビキタスネットワーク社会を実現することは大切だと思いますね。
――電子政府・電子自治体への取り組みはいかがですか。 片山大臣 昨年12月の臨時国会で行政手続オンライン化関係3法が成立し、電子政府・電子自治体の法的根拠ができました。この中で重要な公的個人認証の法律も整備しましたが、安くて手軽にとれる公的個人認証は、電子政府・電子自治体の基盤です。これら法的基盤も整い、まさに2003年は電子政府・電子自治体元年と言えます。
現在、行政手続は約5万2000件あり、これらすべてを原則オンライン化するわけですが、国民と行政の間の手続約2万1000件は、ほぼ2003年度中にオンライン化できる見通しです。
地方自治体の方はちょっと遅れるかもしれませんが、これも順調にオンライン化が進むでしょう。行政間のオンライン化は、今年度中に中央省庁の霞が関WAN(広域ネットワーク)と地方自治体のLGWAN(総合行政ネットワーク)を結ぶネットワークに全ての市町村が接続される予定です。
まず、申請手続のオンライン化も始まり、電子調達も総務省が昨年10月から、全府省でも来年3月までに始まります。電子入札も国土交通省が直轄工事で進めていますし、電子申告・電子納税も来年から所得税、法人税、消費税で始まります。地方税も総務省が昨年暮れにモデルを提示しましたので、早期に導入が始まることを期待しています。
電子投票もすでに8団体が条例を作って実施できる体制を整えており、現時点で実施したのは4団体ですが、これもだんだん広がっていくでしょう。
電子自治体を進めていく上で、住民との接点となる窓口事務はもちろんですが、内部管理事務のIT化も重要です。電子自治体を進めるには、できれば府県単位、難しければブロック単位くらいで共同して行い、さらにセキュリティやプライバシーには十分に配慮したうえで、民間に運営を任せて、地域のIT関連産業の育成を図る「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」を打ち出しています。
府県レベルなどの大きな単位で共同化すれば、市町村合併も推進しやすくなるでしょう。合併特例法の期限である2005年3月末までに合併後の自治体数が1000まで減るのは難しいかもしれませんが、1000台にはなると思います。ITを上手に活用して合併など広域化を進めて行って欲しいとお願いしているところです。
■「アジア・ブロードバンド計画」 ――日本国内だけでなく、アジアを見据えたIT戦略も必要になってきました。 片山大臣 アジア域内の情報交流量も少ないうえに、アジアと米国や欧州との情報交流量は、米国と欧州の交流量の10分の1と言われています。貿易量ではほぼ均衡がとれているのに情報量が少ないのは、それだけアジアの情報のウエイトが低く、何とかこれを引き上げていく必要があります。
しかし、アジアは多くの国があってIT化のレベルも違いますから、まず全体をレベルアップしなければなりません。そこで、日本、韓国、中国の3か国がアジアIT化の推進力になろうと、情報通信大臣3か国会合が昨年9月に開催され、今年9月に第2回会合が行われる予定です。
アジアには、非常に島嶼が多く、こうした環境でインターネットアクセスを普及していく方法として、通信衛星の利用が考えられます。そこで「アジア・ブロードバンド計画」に基づいて、総務省を中心に、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシアの6か国の大学、公的研究機関と共同で、ブロードバンド衛星技術の実験を行うことを合意し、今年の9月から実験を開始する予定です。
今後「アジア・ブロードバンド計画」を大々的に進めていくためには、ODA(政府開発援助)を活用していくことも必要で、ODA大綱改定案にも情報通信技術(ICT)分野の協力を重視する旨を明記しているところです。
■経済活性化のために ――最後に、IT産業界への応援メッセージをお願いします。 片山大臣 情報通信産業は、広義にとらえれば、いまやわが国のリーディング産業です。最近の数字では、市場規模は123兆円に達しており、今後ともこの分野を伸ばしていくことは非常に重要で、経済活性化にとっても大きな課題です。
ここに来て、IT需要も少し持ち直しの状況にありますし、これから地上波のデジタル化も進めれば、それだけで210兆円もの経済効果が期待できると試算されています。電子政府・電子自治体が進み、電子商取引も拡大して、新規産業も興りIT関連産業の裾野が広がっていくでしょう。大いに元気を出して頂きたいと思います。
【プロフィール】1935年8月2日生まれ、岡山県出身。東大法学部卒業後、自治庁(現総務省)ヘ入庁。地方振興と地方自治の強化に尽力。1989年より参議院議員。「信なくば立たず」が政治理念の基本。学生時代は柔道部だったが、現在の趣味はゴルフとジョギングで、青梅マラソン大会にも出場した。参議院議員(岡山県、当選3回)
経 歴
1958年3月 東京大学法学部卒業
1958年4月 自治庁入庁
1978年1月 総理府人事局参事官
1979年4月 総理府人事局参事官兼内閣審議官
1980年7月 自治省振興課長
1981年8月 自治省公務員第一課長
1982年4月 静岡県総務部長
1984年4月 消防庁総務課長
1984年8月 自治省行政課長
1985年4月 岡山県副知事
1987年4月 自治省大臣官房審議官
1987年5月 消防庁次長
1988年7月 退官
1989年7月 参議院議員
1992年12月 大蔵政務次官
1995年8月 参議院大蔵委員長
1996年11月 自由民主党地方行政部会長
1997年7月 参議院自由民主党国会対策筆頭副委員長
1998年8月 参議院自由民主党国会対策委員長
2000年12月 総務庁長官兼郵政大臣兼自治大臣
2001年1月 総務大臣