台湾を代表するマザーボードメーカーのアサステックは、台湾が最も得意とする代工(中国語でOEMのこと)に甘んじることなく、マーケティングコストのかかる自社ブランドの育成を成し遂げた。アサステック(台北市)の成功例は、現地台湾のみならず、世界に知れ渡っている。そこで、同社の施崇棠(ジョニー・シー)会長兼CEOに同社の現状と中国との関わりについて聞いた。
アジア各国の特性を吸収

アサステックのビジネス哲学の中核は、「クオリティ、サービス、コスト、変革、スピード」のすべてを同社流に体系化したマネジメントシステムだ。これらは多くを日本の会社から学んだという。
「日本のノートパソコンの大手メーカーと共同作業の結果、歩留まりが極めて良くなった。生産数量では残念ながら台湾企業のなかで1位ではないが、品質では1位であると確信している」と施会長は話す。
IT産業を担う東アジア各国の特性については、次のように分析している。
「韓国は日本のように集団での行動や垂直統合などの点で優れているが、日本の規律、システマティックな特性と異なり、台湾に近い弾力性とスピードをもっている。その結果、DRAMや液晶モニタなどの分野に強い。台湾は弾力性とスピードと個性、分業指向が得意である」
台湾がパソコン分野で成功したのは、部品の標準化が要求される世界で、スピードと多くの中小企業がしのぎを削る環境がこのオープンな産業構造にマッチしたと言える。DRAM以外のIC産業の世界で一歩進んでいるのも、分業体制とスピードの産業構造があったからだ。
「中国に関しては、まだ未知数の部分が大きいので現状ではなんともいえない。日本はドイツと同様、技術面ではリードし、規律をもち、またシステマティックな行動を得意とする。また、集団行動と垂直統合の性格をもつ」
もちろんこれは一般論であるから、それぞれ違った個性をもつ企業もある。「アサステックはこれらのいい部分をバランス良く取り入れるように努力をしている」と強調する。
同社の中国戦略は、1つの成功例としていいかもしれない。
一般に台湾企業は中国の低コストにだけ着目し、進出するが、必ずしも成功しているケースばかりでない。現地政府との灰色の関係、税金や罰金にかわる賄賂など、解決すべき課題も多い。
アサステックの場合は、公正でクリーンで相互理解の関係を現地の政府と築いている。
現在、多くの台湾企業が続々と中国、特に距離が近い南部の地域に進出している。同社はその流れに反して、あえて南部の広東省を選ばずに、江蘇省の蘇州市を選んだ。中国税関の広報誌でも同社が全国第1位の模範企業として表彰されたこともある。
「税関とわれわれの間のプロセスと帳簿は電子化されている。すなわちE-ブックである。EDI(電子データ交換)による通関処理を実現したのだ」と施会長は胸を張る。その結果、迅速でフェアな通関はビジネスを加速させ、その結果、政府も税収入が増え、財政が潤うというわけだ。「必要な税金はどんどん払う」と施会長はためらわずに言う。
同社は、台湾企業のなかでも中国大陸で最も成功している企業かもしれない。それは、従業員宿舎や高いレベルの福利厚生を整え、従業員の徹底教育も行うなど、さまざまな施策によってもたらされていると言える。
日本式の品質管理、台湾のスピード、中国の低コストの調和。中国へ進出する日本企業にとっても1つのビジネスモデル成功例として参考になるかもしれない。