日立製作所（庄山悦彦社長）が提唱する、システム基盤全体をユーティリティ化する戦略「Harmonious Computing（ハーモニアス・コンピューティング）」の“青写真”が、ようやく具体的に見えてきた。11月17日には、同戦略の中核製品となるサーバー、ストレージ、ネットワーク技術とミドルウェア技術を1つに融合させた次世代プラットフォーム統合システム「エンタープライズ・ブレード・システム（EBシステム）」を発表。ハードウェアを統合する新たな筐体を開発して業界の「標準化仕様」を目指すという。この新コンセプトに同社を取り巻く業界がどのように反応するか注目される。（谷畑良胤●取材／文）

業界の「標準化仕様」目指す

■サーバーやストレージをモジュール化

　日立製作所が2004年中に提供開始を予定している「EBシステム」ではまず、サーバー、ストレージ、ネットワーク機器を1つの筐体に統合できる製品群を開発する。各機器をモジュール化して、専用筐体に「ラック型」で抜き差しできる。現時点で各モジュールのサイズは公表していないが、「システム管理のインターフェイスやモジュール接続性の課題を解決して、業界スタンダードとして確立を目指す」（緒方博通・Harmonious Computing統括センタ戦略企画部部長）と、EBシステムを「標準化仕様」として業界への浸透を狙う。

　最近、NECやヒューレット・パッカード（HP）などハードウェアメーカーが償却期間の終了間近のサーバーを統合して台数や保守・管理などのコスト削減を図り、リソースを有効活用する「サーバー・コンソリデーション」をシステムの再構築で積極的に打ち出している。さらに、日本IBMなどが、ユーザーが管理すべきストレージを削減する目的で、必要時に容量を追加・割り当てができる「ストレージ・コンソリデーション」の技術力を高めている。

　日立製作所のEBシステムは、これらすべてを包含したようなイメージで、業界でも例がない。ネットワーク機器を含めサーバーとストレージも統合することで、「机の下に置くような小さな部門システムから基幹システムまでをカバーし、ハードの設置面積を抑えながら、各モジュール構成をフレシキブルに変更できる新製品になる」（久芳靖・ソフトウェア事業部計画部主任技師）と、変化に即応できる拡張性の高さを強調する。

■ミドルウェアで一元管理

　EBシステムを「標準化仕様」に導くため、各モジュールを統一的なインターフェイスで管理できようにするほか、モジュール同士の接続で使うコネクタの機械的形状や電気特性、プロトコルなどについても「標準化」に向けた開発を進める。これらの課題に対しては、一部で提案されている既存技術の採用を検討中だ。また、各モジュールの部品供給元やシステム管理ベンダーなど2、3社の同業他社とアライアンスを組み、協業して開発を進め「標準化仕様」として提案をしていく考えだ。

　同社では、ハード面の開発とともに、同社のミドルウェアの1つである統合システム運用管理ソフト「JP1」を強化したソフトの開発に着手。各モジュールで構成されるシステム全体を一元管理して、資源配分を制御する機能と運用サイクルの自動化や稼動情報・分析レポート（プロアクティブ）、ソフト資源の割り当て（プロビジョニング）といった機能を強化する計画だ。

　また、業務アプリケーションの共通機能をコンポーネント化して、個々の業務アプリケーションの短期開発を支援する業務共通システム基盤「アプリケーションフレームワーク（APF／W）」の開発も順次進める。

　これら一連の戦略発表は、同社が昨年12月に発表したシステム基盤全体をカバーする統一コンセプト「ハーモニアス・コンピューティング」の青写真となる。「既存のハード製品も継続して販売する。だが、これを機に新たな領域へビジネスが展開する。日立以外のチャネルとも積極的に協業していく」（緒方部長）としながらも、1社の製品でシステムを完結させる「垂直統合」の色合いの濃い戦略展開となっているようだ。