ヒントは商店街の復興にあり

　名古屋・大須電気街が生き残りをかけて模索を始めている。大須電気街は、パソコン関連商材の単価下落や、昨年11月、名古屋駅前に開店した大型家電量販店ビックカメラの影響を受けて、「前年同期に比べて売り上げが約8割程度に落ち込んでいる」（関係者）と、厳しい状態が続いている。今年1月には、大須電気街の老舗店舗の１つであるマイコンテックが名古屋地方裁判所から破産宣告を受けて閉店した。

　3月下旬には名古屋駅前のビックカメラのすぐ近くに、ソフマップが売り場面積約800坪（約2640平方メートル）の大型総合店を出店する予定で、名古屋駅周辺のIT関連の集客力が一段と高まることが予想される。名古屋駅から電車で30分も離れていない大須電気街では、「ビックカメラやソフマップとは違う、大須らしい戦略が必要だ」（別の関係者）と危機感が高まっている。

　大須全体の集客力が低下しているわけではない。昨年12月には、大須の代表的な寺院の1つの萬松寺（ばんしょうじ）前の再開発が約5年近い歳月をかけて完了。この再開発で約800台の車を収容できる駐車場ビルを含む3棟のショッピングモール群が完成した。このうち1棟には中華料理店など10数店舗を誘致して〝大須中華街〟を作った。萬松寺の大藤元裕・副住職は、「再開発を経て、大須商店街の集客力は確実に高まっている」と評価する。

　大須の主な商店約363店舗が加盟する大須商店街連盟によれば、「数年前の調査では、大須商店街での土日・祝日の1日あたりの集客数は約7万人だったが、今は推定10万人を超えるまでになった。地域の商店街の復興に関心を寄せる全国の商店街関係者が、大須の集客力増強への取り組みをひと目見ようと視察に訪れる」と、一時は衰退したかに見えた商店街が、再開発などを経て着実に復興していると話す。

　大須電気街の主要パソコン販売店団体である「大須AIC」の佐原勝栄・副会長（九十九電機営業本部名古屋・大阪地区店舗担当部長）は、「5年前に比べ、大須商店街を訪れる客数は3倍くらい増えた印象だ」と、大須商店街の集客力は増えたと見ている。問題は、商店街への客数増大がIT関連の売り上げに結びついていない点である。販売店関係者は、「大須商店街の集客数増大をどう売り上げに結びつけるかが課題」と打ち明ける。「このままだと、名古屋駅前や郊外店に客を取られ、なおかつ販売単価も下がり、大須のパソコン販売店の販売額は下がり続けるしかない」と、危機感をあらわにする声も聞こえてくる。

　危機脱却のポイントについて、大須AICの佐原副会長は、「パーツやアミューズメントなど、大須電気街の強い部分をより強化する必要がある」と、名古屋駅前や郊外店との差別化を指摘する。また、「新しい文化と古い文化が融合した大須の魅力を生かした電気街づくりが大切。大須商店街の復興は全国的にみても珍しい成功事例である」と、大須電気街として、大須商店街との相乗効果をどう出すかが重要だと指摘する企業トップもいる。　大須電気街の強みは、なんと言っても、同地区の集客力が高まっている点にある。大須電気街単独の施策に頼るのではなく、活性化している大須商店街全体との結びつきをこれまで以上に強めることで、電気街の〝大須らしさ〟を模索するのも1つの方法だろう。 安藤章司●取材／文