設立50周年を迎えたアイオーデータ。社名やコーポレートメッセージを一新し、ユーザーへの価値提供を重視する姿勢を打ち出した。近年は活動の幅も広げており、例えばオープンソースソフトウェア(OSS)への関与、そしてITジュニア育成交流協会への協賛だ。これらの活動には、どのような背景や狙いがあるのか。BCN代表取締役社長の奥田芳恵が、アイオーデータの細野昭雄・代表取締役会長に聞いた。
社名から「機器」が消えても、ものづくりはやめない
奥田 1月に設立50周年を迎えられ、7月には社名を「アイ・オー・データ機器」から「アイオーデータ」に変更されました。その背景からお聞かせください。
細野 社名の「機器」は、そろそろ必要ないだろうと以前から考えていたのです。お客様やマーケットの皆様も、7~8割は当社を「アイオーデータ」と認識されていたと思います。
アイオーデータ
細野昭雄 代表取締役会長
もう一つは、事業全体の中で「NarSuS」や「IDM」といったクラウドサービスの重要性が高まってきたことです。当社は10年ほど前にクラウドの取り扱いを開始し、その頃はまだ比重が小さかったのですが、ここ5、6年で急速にウェイトが高まりました。NAS製品一つをとっても今やクラウドサービスの存在が大きく、当社はデバイスだけの会社ではなくなりました。そうした考えで、50周年の節目に合わせて表記を整えました。
奥田 社名変更に合わせて打ち出された新コーポレートメッセージ「機器の、さきへ。」にも、その考えが込められているわけですね。
BCN 代表取締役社長(ITジュニア育成交流協会理事長)
奥田芳恵
細野 このメッセージは、ハードウェアとサービスの相乗効果で新たな価値を提供していく、という思いを込めています。
誤解のないようにお伝えしておくと、当社はものづくりをやめる気はありません。ハードウェアで手を抜いては、サービスと組み合わせた価値も高められません。自動車でも同じでしょう。ソフトウェアの比重は高まっていますが、ハードウェアの重要性が薄れたわけではありません。当社も従来の強みである機器開発を維持しながら、サービスとの連携を深め、さらに価値を高めていきます。
奥田 アイオーデータは今後、どういった姿勢で製品やサービスをつくっていくのでしょうか。
細野 ハードだけでなく、サービスも含めたトータルな価値の提供です。以前からの姿勢ですが、今後ますます重視していきます。競合各社も同じ方向を志向していると思いますが、当社が特に意識しているのは日本のお客様に向けた付加価値です。海外勢がグローバルに展開する商品は、日本市場に合わないことも少なくありません。どこがどう日本に合わないのかを真っ先に見極め、新たな価値に変えていく。それが日本企業である当社のあるべき姿です。
「使う側」ばかりが増える危機感。だからこそOSSに取り組む
奥田 IT人材の不足が取り沙汰される一方、生成AIなどの新技術が急速に広まっています。日本のIT業界にはどのような取り組みが求められますか。
細野 生成AIは人類の10年、20年先を左右しかねない存在になってきました。いずれは思想や哲学、文化といった領域にも深く関わってくるでしょう。日本には日本独自の文化や精神性を踏まえたAIが必要で、AI時代の土台となるOSも本来は日本が自ら手掛けるべきです。ただ、業界だけではまだそこに迫る力がないので、行政の方向付けも必要ではないかと個人的には思います。
IT人材についても同じです。今の日本には、クラウドを使いこなすエンジニアは数多くいます。しかし、提供された機能を使いこなせることを、すごい技術者であるかのように評価するのは違うでしょう。大事なところを他者に依存していることになります。日本は20年、30年前から変わらず、「IT人材不足」という“量”の議論で止まっているのではないでしょうか。
奥田 クラウドや生成AIを「使う」だけでなく、基礎的なところから「つくる」側の人材が必要ということですね。
細野 そこで着目したのがオープンソースソフトウェア(OSS)です。OSSは使うだけなら無償ですが、それだけではつくる力が身に付きません。その代わり、OSSコミュニティーには誰でも参加できます。つくり手として関わることに大きな意義があるのです。生成AIも同様で、オープンソースAIの開発に加わり、そこに日本独自の価値観を組み込んで国内でローカルに使えるAIを育てる。そうした動きが重要になります。
OSSの成果の一つがコンテナ技術です。今年6月には、WindowsとmacOS上でLinuxと同様のコンテナをネイティブサポートすると、米Microsoft(マイクロソフト)と米Apple(アップル)が相次いで発表しました。Linuxベースのコンテナはもはやデファクトスタンダードになりつつあるのです。日本のメーカーにとってもチャンスになるはずですが、あまり注目されていません。
奥田 アイオーデータはLinuxディストリビューションの一つ、Ubuntuを活用した新事業に2024年から取り組んでおられます。これもOSSへの関与の一環ですね。
細野 1990年代、米国でUNIXの商用化が進む一方、欧州ではOSSとしてLinuxが開発され、そこからさまざまな技術が生まれました。コンテナもその一つです。Linuxはさまざまなディストリビューションに派生し、商用化が進んだものもありますが、Ubuntuは比較的フリーな立場を維持しており、AI開発の標準にもなっています。そこで英Canonical(カノニカル)に相談してライセンス契約を結び、UbuntuプリインストールPCなどの国内提供を始めたのです。
「つくる体験」を10代に。ITジュニア育成交流協会に協賛
奥田 アイオーデータにはITジュニア育成交流協会の活動に長年ご協賛いただき、このたび大型液晶ディスプレイや電子黒板、Ubuntu搭載PCもご寄贈いただいています。「つくる側への参加」という観点でも、大きな意義がありそうです。
細野 当社がUbuntu事業を開始してから2年が経ちます。OSSの世界が日本でなかなか広まらない背景に何があるのかを考える中で「子どもたちにもアプローチしてみよう」と至ったのが、今回の寄贈に至った理由です。
奥田 子どもたちに着目したのは、やはり社会に出る前の経験を重視してのことですか。
細野 10代での経験は非常に重要です。大人はどうしても「スキルの習得が収入につながるか」などと考えてしまい、別のスキルを新たに獲得していくことにはハードルがあります。だからこそ“損得”を意識しなくていい時期に、あらゆるものを組み合わせて何かを構築する体験が、とても大事なのです。
私自身、10歳くらいの頃には模型の船にモーターとスクリューをつけて、小学校のプールで走らせて遊んでいました。実家が文房具店で模型飛行機キットを扱っていたので、組み立てては調整して飛ばしたものです。細い竹の骨組みをロウソクであぶって曲げ、プロペラや翼の向きを微調整しては、滞空時間を競う大会に出て何度も優勝しました。10分以上飛ばせるのですよ。
中学に入ると真空管ラジオを組みましたね。オーディオが好きで、アンプも3台つくりました。後にはラジコン飛行機も自作するようになりました。うまく飛ばせるように微調整しながら試行錯誤するのは、とても楽しい。今も割とワクワクしていますよ(笑)。
奥田 いわば根源的な体験を提供したい、ということですね。寄贈品は当協会の支援先のうち希望する団体に届きますが、とりわけ高等専門学校(高専)に期待を寄せられているのはなぜでしょうか。
細野 日本の学校の多くは、就職を意識した内容が中心になりやすく、頭と手を使って何かをつくる体験を積む機会は限られがちだと思います。高専は5年間ですから、じっくり体験を積むのにちょうどいい。AI開発にも最適なOSSをいろいろといじって、試行錯誤してほしいのです。すぐに成果が出る活動ではありませんが、こうした積み重ねを踏まえた事業こそが大事だと思っています。
アイオーデータがITジュニア参加団体に向けて行った製品寄贈式の様子
アイオーデータの未来投資。業界全体への広がりに期待
奥田 公益性の高い活動に民間企業が協賛することには、さまざまな課題もあります。それでも企業が担う必要がある、というお考えでしょうか。
細野 必要があります。だからこそ取り組んでいるのです。当社は4年ほど前まで、約31年にわたって上場していましたが、株式市場では教育や社会への貢献が評価されにくい面もあります。公益活動に力を入れられるようになったのは、上場をやめてからでした。とはいえ、非公開でも利益は確保しなくてはなりませんから、当社だけでは限界があります。だからこそ、NPO法人への協賛という形を中心にしているのです。
奥田 その意味では、アイオーデータの後に続く企業が出てくることを期待したいですね。
細野 次に続く企業が現れれば風向きが変わるかもしれません。公益活動に対する投資家や社会の見方が広がり、業界全体が一気に動き出すような変化を期待します。
奥田 最後に、次世代を担う子どもたち、そしてIT業界を支える販売パートナーや企業の皆様へ、メッセージをお願いします。
細野 私の10代20代の体験は、普通の人から見れば変人でしょうね(笑)。子どもたちには、とにかく何でもいいので興味を持ってもらいたい。一方向からではなく、あらゆる角度から観察すると、何らかの発見があり、楽しくなってくるものです。そのワクワク感を忘れずに、興味のあることに挑戦してください。
業界に対しては、日本的な文化や考え方の良いところに、もっと注目してほしいと考えています。海外のやり方は一方的すぎるところがあり、それとは異なる日本的な考え方が課題解決につながるケースは少なくありません。高専も日本発祥ですが、海外に受け入れられ、モンゴルなどアジア各国にも広がっています。日本の良さをワールドワイドに広めるうえで、OSSも含めたITはそのツールになるはずです。その方が楽しいじゃないですか。