パソコンメーカー各社が新製品の販売を開始し、2004年夏商戦の火蓋が切って落とされた。今夏のアテネオリンピック開催による高画質の映像ニーズを当てこんで、以前から各社が取り組んでいるAV(音響・映像)機能の強化に拍車がかかっている。新製品の発売時期を早め、薄型テレビに需要がシフトしないようテレビメーカーの先手を打つなど、何としてでもパソコンを拡販しようと各社とも必死だ。企業向けよりも回復が鈍い個人向けパソコン市場が、オリンピック需要などで夏商戦を境に活性化するのだろうか。(佐相彰彦●取材/文)
引き続きAV機能を重視
■簡単操作を追及し、パソコンとAVの融合を加速 今年は、アテネオリンピックの開催で薄型テレビを中心とした高画質の映像に対する需要が増大することは確実との見方が強い。そのため、NECと富士通、ソニーの大手3社が新製品の付加価値としてさらに強化してきたのは、以前から取り組んでいるAV(音響・映像)機能だ。
NECは、見たいシーンをもう1度視聴できるだけでなく、遡って録画できる機能「さかのぼり録画」や、キーワードで好みの番組を自動録画する「おまかせ録画」機能、番組予約が簡単に行える電子番組表(EPG)などを搭載した。NECパーソナルプロダクツの前澤光史・PC事業本部営業事業部長代理兼関東営業部長は、「パソコンならではの便利で新しい録画生活を提供することで、夏商戦は台数ベースで前年同期比5%増にする」と、拡販に意欲を燃やしている。
富士通では、「見る」、「録る」、「残す」をキーワードとし、22インチの大画面液晶を搭載した機種もラインアップした。加えてパソコンを起動させずにテレビ視聴が楽しめるインスタントテレビ機能の採用や、テレビ番組の直接録画・高速書き込み機能などを搭載。テレビ利用に関する基本操作を1冊に分かりやすく集約したオールカラーのマニュアル「テレビを見る・録る・残すガイド」も添付した。富士通パーソナルズの油谷榮一・取締役パーソナル営業本部長は、「夏商戦は、パソコンでテレビ番組を録画することが難しいと考えているユーザーの意識を変える。販売台数は前年同期に比べ5%以上増やす」計画を固めている。
ソニーは、夏商戦からAV機器とパソコンをさらに融合したバイオビジネスを本格化。夏商戦向けの新製品は、10シリーズ52機種の投入と、NECの9シリーズ・29機種、富士通の9シリーズ・31機種を凌駕するラインアップで拡販を図る。
機能面では、新開発の高画質ビデオプロセッサ「モーションリアリティ」や高画質デジタルアンプ「S-マスター」などの搭載で、映像と音楽の品質向上を追及したデスクトップパソコンをラインアップしたほか、ノートパソコンで小型・軽量化、省電力化を図ることで実用性をさらに強化した。
「パソコンの機能を追及する一方、パソコンのプラットフォームにこだわらないAV機能を搭載し、簡単・明快操作を実現したパソコンを発売することでAVとパソコンの“壁”を取り除く」(ソニーの木村敬治・業務執行役員常務)方針だ。
02年のサッカーワールドカップで薄型テレビの需要が急激に立ち上がった際、パソコンの販売が激減したという事実がある。こうした状況に陥ったのは、「AVパソコンのラインアップが少なかったため」というのが各社共通の意見。02年の失敗を教訓に、「02年の二の舞だけは避けたい」というのが夏商戦を控えた各社の考えだ。
■新製品発売直後でも、大型連休以外は前年同週割れ 今年夏商戦で特徴的なのは、製品の発売時期を早めたメーカーが多いという点だ。
夏商戦の口火を切ったのは富士通。販売開始日が4月20日からで、昨年の5月13日より3週間以上も早い。昨年の発売時期も他社より早かったため、発売時期の前倒しを今回も継続した形だ。
NECでも5月6日からと、昨年の5月22日より2週間以上早めている。東芝が5月14日(昨年は5月25日)、ソニーが5月15日(同5月24日)といずれも10日前後早めたが、松下電器産業だけは前年並みの5月21日(同5月23日)から。逆にシャープは5月29日と、昨年の5月24日より5日間遅れて販売開始となる。
大手メーカーが発売時期を早めたことで、夏商戦本番は昨年よりも早く立ち上がることになる。各社が例年より早くパソコンを発売するのは、新製品に対するユーザーの購入意欲を湧かせるための苦肉の策。
今年は、家電量販店を中心にショップの多くが薄型テレビを夏商戦の目玉にする。薄型テレビの夏商戦が本格化するのは6月中旬以降。パソコンメーカーの買い替え需要促進策として、「パソコンと薄型テレビのどちらを購入するかを検討している消費者の心をいち早くつかむ」ために、あえて製品発売を早めた。富士通パーソナルズの油谷取締役も、「今年は、ほかの製品に需要をもっていかれないように先手を打つことを視野に入れた発売時期」と、薄型テレビを意識していることを認める。
NECパーソナルプロダクツは、「夏商戦でパソコン市場自体の活性化を図らなければ、需要喚起が難しくなる」(前澤PC事業本部営業事業部長代理兼関東営業部長)とし、「薄型テレビの需要が急拡大する前に手を打つことが重要」と見る。
BCNランキングによれば、パソコン市場の販売台数は、夏商戦幕開け前夜の4月12-18日は、デスクトップで前年同週の11%減、ノートで同21%減。富士通の新製品が発売された4月19-25日は、デスクトップで同9%減、ノートで同11%減、4月26-5月2日がデスクトップで同16%減、ノートで同22%減と低迷が続く。大型連休の真っ只中である5月3-9日は、デスクトップが同22%増、ノートが同5%増と増加したものの、5月10-16日でデスクトップが同4%減、ノートが同9%減と再び前年同週割れになった。各社が新製品の発売時期を早めたものの、結果的には効果は表れていない。
6月早々には、各社の新製品ラインアップがほぼ出揃い、夏商戦のピークを迎えるはず。もし、6月に販売台数が伸びなかった場合、パソコンの購入か薄型テレビかに悩むユーザーが薄型テレビに流れたということになるだろう。
 | AV機能とモバイル性 | | | NECと富士通、ソニーのパソコン大手3社がAV機能を強化したパソコンに力を入れているなか、松下電器産業とシャープの2社は、ノートパソコンでモバイル性を重視する戦略をとっている。 松下は、夏商戦向けの「レッツノート」で、最長9時間とバッテリー寿命の長時間化や、重さ990グラムと軽量化するなど、モバイル機能を徹底強化した。シャープは、同社初のA5サイズモバイルパソコン「メビウス・ムラマサ」で「PC-CV50」シリーズを投入する。 伊藤好生・松下電器産業パナソニックAVCネットワークス社・ITプロダクツ事業部長は、「モバイルノートは、AV(音響・映像)パソコンと異なり、デジタル家電とバッティングしないことに加え、需要が伸びている |  | 分野でもある」とモバイルに集中する理由を話す。「夏商戦は、前年同期の1.5倍以上を販売する」と、夏商戦で拡販の弾みをつけ、2004年度(05年3月期)の販売台数をレッツノートシリーズ全体で30万台と見込む。 シャープはこのほど、液晶事業とIT事業を合わせた液晶IT事業部を設立しており、「枠にとらわれない新ジャンルを生み出し、デジタル時代の新しいライフスタイルを提供していく」(中川博英・情報通信事業本部長)ことを掲げた。パソコンにAV機能を搭載することだけにこだわらず、「液晶テレビとノートパソコンを組み合わせた展開」なども視野に入れる。今年度は40万台の出荷台数、シェア3.5%の獲得を見込む。 | |