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IBMパソコン事業売却、米メディアは厳しい論調 急伸レノボはジャンプアップできるか
2004/12/20 21:12
週刊BCN 2004年12月20日vol.1069掲載
【ニューヨーク発】IBMのパソコン事業売却は、2004年のIT産業界にとって最大の衝撃的な事件だ。これまでのパソコンメーカー同士の吸収・合併劇とは異なり、今回は“パソコンの祖”ともいえる世界的トップ企業とアジアの新興メーカーとの組み合わせ。もっとも、ハードウェアメーカー各社がパソコンの製造・販売からの脱却を図りつつあるのは衆知の事実。しかも製造販売業としての足枷もいまだ多く残っている。IBMは一見思い切った判断をしたかに見える。しかし同時に、自身が構築した旧来のしがらみから抜け出すのにも躊躇しているかのようだ。今回の売却劇を最終的に成功に導くために必要なのは、もしかしたらIBM自身のさらなる英断なのかもしれない。(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文)
「中国でのシェアも失う」との見方も
■「うまくいったことがない」
IBMのパソコン事業売却について、米国の各メディアは驚きをもって報道した。しかも、時間が経つにつれて報道合戦は加熱する一方だ。
デルのマイケル・デルCEOは、「近年のパソコン製造業同士の提携や合併はうまくいったことがない。IBMとレノボグループも、NECとパッカードベル、テキサスインスツルメンツとエイサー、そしてゲートウェイとイーマシーンズなどと同様の道をたどるだろう」と皮肉った。
ウォールストリートジャーナル紙も「レノボグループは、IBMが手放したがっている事業を引き継ぐことの意味を理解していないのではないか」と辛辣だ。
金融関係の反応も同様だ。シティグループのアナリストは、レノボグループは急速な多角化経営を推し進めた結果、仕方なく海外進出する必要があっただけと結論づけ、「世界のマーケットに出ていかなければ、レノボグループは市場での地位を築けない。しかし、ブランドに目がくらみ足元がおろそかになれば、今後数年間で最も重要な市場となる中国でのシェアも失うこととなるだろう」と分析する。
悲観的な意見が多いのは、11月29日に米調査会社のガートナーが発表した世界のパソコン市場の動向に関するレポートの直後ということもある。同レポートによると、世界の主要パソコンメーカーのうち最大3社は消え去る可能性があるとし、今後のパソコン製造業の未来に関しては明るい材料が少ないことをことさら強調していた。
かつてNECは米国進出のためにパッカードベルを買収したがすぐに撤退した。テキサスインスツルメンツからパソコン部門を買い取ったエイサーも同様だ。今回のIBMとレノボグループの関係も、それらと大きな違いが見て取れるわけではない。
■他社に乗り換える動きも
パソコン製造は利益幅が薄く、事業としてはすでに魅力を失っていたのは周知の事実だ。もちろんIBMも例外ではなく、パソコン事業の売却は随分前から時間の問題とみられてきた。今回の売却話の陰に隠れてしまったが、IBMは12月3日に同社のサーバー用プロセッサの利用促進を目的にしたオープン・スタンダード・コミュニティ「Power.org」を設立すると発表している。これはIBMがパソコン事業に見切りをつけ、サーバー事業に注力していく方針の表れといえるだろう。
しかし、ブランドイメージの維持にはパソコン事業は必要という見方も強く残っている。IBMのブランドネームは今後5年間は維持される。世界を視野に入れたビジネスを展開することになったレノボグループにとっては、中国企業からワールドワイドの企業へと発展するための大きなチャンスだ。
すでに都市部のパソコンショップではIBM製品は姿を消しつつあり、インターネット上では、IBM製パソコンの大幅なディスカウントを謳うスパムメールも増えている。IBM製パソコンを使っている法人クライアントの多くは、今後のサポートに対する不安を口にし始めており、個人ユーザーはデルやヒューレット・パッカード(HP)の広告に目が向き始めている。
IBMのパソコン事業売却は吉と出るのか凶と出るのか。メディアを含め米国市場がどのような評価を下すのかに注目が必要だ。
【ニューヨーク発】IBMのパソコン事業売却は、2004年のIT産業界にとって最大の衝撃的な事件だ。これまでのパソコンメーカー同士の吸収・合併劇とは異なり、今回は“パソコンの祖”ともいえる世界的トップ企業とアジアの新興メーカーとの組み合わせ。もっとも、ハードウェアメーカー各社がパソコンの製造・販売からの脱却を図りつつあるのは衆知の事実。しかも製造販売業としての足枷もいまだ多く残っている。IBMは一見思い切った判断をしたかに見える。しかし同時に、自身が構築した旧来のしがらみから抜け出すのにも躊躇しているかのようだ。今回の売却劇を最終的に成功に導くために必要なのは、もしかしたらIBM自身のさらなる英断なのかもしれない。(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文)
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