日本アイ・ビー・エム(日本IBM、大歳卓麻社長)は、リッチクライアント戦略を本格化させる。年内をめどにクライアント用ミドルウェア製品「IBMワークプレース・マネージド・クライアント(IWMC)」(仮称)の販売を開始し、同じく年内発売予定のグループウェア「ロータスノーツ7.0」(同)をIWMCに対応させる。IWMC対応アプリケーションの開発では、国内外のISV(独立系ソフトウェア開発ベンダー)や国内約200社あるノーツ対応アプリケーションの開発ベンダーから協力を得るなどして、リッチクライアントプラットフォームのデファクト・スタンダード(事実上の業界標準)にする。
ミドルウェアを年内に投入
クライアントパソコンからの情報漏えいや管理コストの増大といったクライアント問題を解決する策として、日本IBMはリッチクライアント用ミドルウェア製品を投入する。日立製作所などのハードベンダーは、クライアントパソコンからハードディスクをなくし、アプリケーションソフトやデータをサーバー側で管理するクライアントシステムを開発しているが、日本IBMでは「特定のハードウェアに依存しない」(澤田千尋・ソフトウェア事業ロータス事業部事業部長)ミドルウェアを開発することで、他社とは違うクライアント問題の解決策を打ち出す。
年内をめどに販売を始める「IBMワークプレース・マネージド・クライアント(IWMC)」は、IBMの技術構想「IBMワークプレース・クライアント・テクノロジー(IWCT)」をベースに開発する。IWCTの中核部分は、2001年9月にオープンソース化したリッチクライアントのプラットフォーム「エクリプス」を使う。リッチクライアントの中核部分のソースコードを開示することで、オープンソースソフトの開発コミュニティからも支持を得ている。IWMCでは、エクリプスにサーバーとのデータ連携やクライアントにおけるデータ管理などの付加機能を加えることで製品としての価値を高めている。
また、マイクロソフトのワードやエクセル、パワーポイントなどオフィス製品と互換性のあるソフトウェアを加え、「標準的なオフィスワークで不自由のない」(米持幸寿・ソフトウェアシニア・テクノロジー・エバンジェリスト)ようにする。ウィンドウズやLinux、マッキントッシュなど複数の基本ソフト(OS)に対応することで、ハードウェアやOSに依存しない環境を提供する。次期製品の「ロータスノーツ7.0」は、IWMCで動作する初めての大型商材になる予定だ。
IWMCを普及させるには、対応するアプリケーションの種類を増やすことが欠かせない。日本IBMでは、アプリケーションサーバー「ウェブスフィア」やデータベース「DB2」など、サーバー用ミドルウェアに対応したアプリケーションやノーツ向けアプリケーションを開発するISVなどに、IWMC対応のアプリケーションの開発で協力を得ていく。すでにエクリプスを含むIWMCに賛同するISVへの働きかけを始めており、ここ1-2年のうちに「主要なISV数十社がIWMC対応アプリケーションを開発に乗り出す」(澤田事業部長)と手応えを感じる。
IWMC内のデータはすべて暗号化されるため、情報漏えいなどのリスクを軽減できる。また、アプリケーションはサーバーからダウンロードして使うため、ソフトウェア更新などの管理コストを大幅に削減できる。ノートパソコンなどでアプリケーションやデータを持ち運ぶこともできる。ウィンドウズや、ハードディスクのないクライアント端末とは異なる手法で問題を解決する「次世代のクライアント用プラットフォーム」(米持エバンジェリスト)だと胸を張る。
日本IBMでは、06年からの本格的な普及に向けて、対応アプリケーションの種類を拡充し、リッチクライアントのデファクト・スタンダード化を目指す。