世界第4位の携帯電話端末メーカーに
シェッファー・リーCOO、「1年で黒字化は確実」
ノートパソコンや液晶テレビなどのデジタル機器メーカー、台湾ベンキュー(ケイ・ワイ・リー会長兼CEO)が独シーメンスAGの携帯電話端末事業を10月1日付で買収する。これにより、ベンキューは世界第4位の携帯電話端末メーカーとなる。シーメンスが携帯電話端末事業の売却を決めたのは赤字となっているため。ベンキューは、買収後に事業の構造改革を進めることで、1年間で黒字に転換させる。加えて、同社のビジネス全体にも大きな成功につなげる目論見があるようだ。(佐相彰彦●取材/文)
■05年度の売上高は約109億ドルに ブランド力向上は確実 ベンキューがシーメンスの携帯電話端末事業を買収するのは、買収による売上高拡大や携帯電話端末メーカーとしてのブランド力を上げることが目的。2004年度(04年12月期)の売上高は52億ドル(約5700億円)だったが、10月1日付で携帯電話事業を組み込むことで、05年度(05年12月期)の売上高は、シーメンスの携帯電話端末事業の10-12月期を加えて、約109億ドル(約1兆2000億円)になる見込み。昨年度の一気に2倍に拡大することになる。携帯電話端末メーカーのなかではワールドワイドで第4位の規模になる見通しだ。
シェッファー・リー社長兼COOは、「将来的には、携帯電話事業の売り上げは、全体の6割程度を占めるようになる非常に重要なビジネス」と位置付ける。しかも、「調達や開発、生産までどれをとっても当社にとって大きなメリットになる」とアピールする。調達面では、部材の数量が増加することで仕入額が下がる。開発面では、同社の小型液晶ディスプレイ技術やデザイン面での開発に、シーメンスのGSMやGPRS、3Gなどの技術ノウハウを生かすことで携帯電話端末の機能向上につながる。生産面では、パソコンやデジタル機器の工場がある中国(蘇州)や台湾、マレーシア、メキシコの4拠点に加え、シーメンスの生産拠点である上海やブラジル、ドイツが加わる。
ブランド力については、買収後の18か月間(07年3月まで)はシーメンスブランドを使うことができ、5年間に渡って「ベンキュー・シーメンス」というブランドで携帯電話端末を販売できる。現在は、台湾向けがメインの携帯電話端末メーカーであるベンキューにとって、シーメンスのブランドを引き継げば、ワールドワイドで一気にブランド力を向上できる。
10月1日の買収後は、シーメンスの携帯事業部門を子会社化し、「ベンキュー・シーメンス」の社名でスタートする予定。来年2月には、「ベンキュー・シーメンス」ブランドの携帯電話端末を発売する計画だ。
リーCOOは、「買収後の1年間で黒字化は確実」と断言する。
■デザイン力、企画力、技術を融合「ベンキューeホーム構想」の戦略製品に シーメンスの携帯電話端末事業は、昨年度に営業損失として1億5200万ドル(約170億円)を計上するなど赤字が続いている。しかも、シェアを競合メーカーに急速なペースで奪われつつある。一方、ベンキューは、シーメンスの携帯電話端末事業部門の従業員約6000人も引き取るため、買収後は抜本的な事業改革を進めなければ、売上高の拡大や知名度のあるブランドを使えるというメリットが意味を持たなくなる。
携帯電話端末事業を成長路線の軌道に乗せるためにリーCOOは、「ヒット商品を多く出すことがカギ」とする。しかも、「シーメンスの販売力は決して悪くない。しかし、これまでは大企業の中の1部門だったため、新製品の開発に遅れが生じていた。当社のデザイン力、企画力とシーメンスの技術を組み合わせれば消費者の購入意欲をかきたてる商品を生み出せる」と自信をみせる。
ベンキューはこれまで、パソコンや液晶ディスプレイ、液晶テレビなど主力製品の開発力や生産力の強化に投資していた一方、携帯電話端末については開発人員も少なく、生産能力も十分ではなかったといえる。デザイン力や企画力はあっても、携帯電話事業を拡大するためのベースがなかったわけだ。
リーCOOは、シーメンスから事業買収することで、「ヒット商品を1年間に10種類程度発売すれば利益を出せる。その基盤は整った」という。生産面での強化策については、欧州を技術開発を含めた戦略拠点とし、中国を大量生産を行う拠点として機能させる。「人件費は欧州よりもアジアの方が圧倒的に安い」と、コスト削減を徹底する方針だ。
出荷台数については、「シーメンスブランドは3000-4000万台で推移しており、減少傾向をたどっている」が、「ピーク時には5000万台の出荷台数だったと聞いた。まずは出荷台数を5000万台に戻す。これだけで十分に黒字に転換できる」と見ている。
ベンキューは、液晶テレビやノートパソコンなどを核にDVDレコーダーや液晶ディスプレイ、プロジェクタ、デジタルカメラなど、家庭内で同社製品がつながる「ベンキューeホーム構想」を掲げている。外出先から家庭内のデジタル機器にアクセス可能な携帯電話端末も戦略製品として位置付ける。
買収により携帯電話端末事業を強化することは、「当社が販売している製品すべての拡販につながる」というのが本当の狙いだとしている。それだけ、買収後に携帯電話端末事業の構造改革が進むかどうかが、ベンキューのビジネス全体に大きく影響する懸念もはらんでいる。
 | 台湾ベンキュー | | | | | エイサーグループのパソコン周辺機器部門が独立し、1984年に事業開始した。パソコン周辺機器メーカーとして液晶ディスプレイの開発・販売を中心にビジネスを手がけていたが、最近はノートパソコンや液晶テレビ、DVDレコーダー、デジタルカメラなどの開発・販売も行っており、デジタル機器の総合メーカーに変貌を遂げつつある。 自社ブランドでの携帯電話端末を発売したのは01年12月。台湾では上位のシェアを確保しているが、ワールドワイドでは低い。そのため、独シーメンスAGの携帯電話端末事業を買収することが事業拡大の早道だったわけだ。 |  | 過去5年間の売上高は、00年度(00年12月期)で17億ドル(約1860億円)、01年度が20億ドル(約2200億円)、02年度が30億ドル(約3300億円)、03年度が36億円ドル(約4000億円)、04年度が52億ドル(約5700億円)と成長している。 日本法人のベンキュージャパンは96年の設立。液晶デイスプレイやプロジェクタなどの販売が中心で、売上比率は個人向けよりも法人向けの方が高い。そこでコンシューマビジネスの拡大に向け、年内をめどに液晶テレビの販売を開始する予定。携帯電話端末の販売については現段階で未定としている。 | | |