正念場迎える三洋電機の経営再建

　三洋電機の経営再建が、正念場を迎える。昨年末に発表した3000億円の第三者割当増資により、3月末の自己資本比率は17％程度に回復する見込みで、当面、財務基盤は強化される。

　しかし、今月下旬の最終契約締結や2月下旬の臨時株主総会までには、自助努力の結果を出す必要もある。

　「選択と集中に早く着手したか否かで優勝劣敗が決まった。（三洋電機は）周回遅れかも知れないが、まだ取り戻せる」（前田孝一副社長執行役員）というが、実態としては「待ったなし」のきわどい綱渡りの状態が続いているのは間違いない。

　「2月末の払込期日までに時間はあったが、（投資計画を）年内に発表することにこだわりがあった」

　三洋関係者の言葉から、明らかにスピードを意識していることがうかがえる。優先株による第三者割当増資というスキーム自体、確実性を重視したというが、スピードを意識した結果でもある。

　前田副社長も「（三井住友）銀行が5％ルールの制約から額（500億円）を決め、残り（2500億円）を（大和証券SMBC　PIとゴールドマン・サックス・グループで）折半した」と、第三者割当増資の舞台裏を率直に語る。

　ステークホルダーたちを安心させるには、何よりも巨額赤字で毀損する資本を補う方策を、市場に対して素早く示す必要があったということだ。

　しかし、求心力が低下しているなかでは、経過だけではなく、結果を残すことも重要。11月の中期経営計画でコア事業を定めた後、構造改革の対象となったテレビ事業については、台湾メーカーとの提携交渉を進めていることも明らかにした。

　情報を積極開示することは大事だが、MOU（覚書）段階で公表するべきだったかについては、疑問も残る。かつて大手銀行が外資との提携を途中経過の段階で発表したものの、まとまらず、逆に市場の失望感を拡げた事例もある。

　井植敏雅社長は、増資の最終契約締結までにテレビ事業の提携交渉をまとめたい意向とされるが、仮に交渉が成立しなければ、構造改革の先行きが不透明になり、今回まとまった増資のスキーム自体が危うくなる可能性もある。

　今のところは、「首脳陣の経営責任とは別」として静観の構えを示している投資グループも、経営責任を含め、厳しい条件をつけてくることも予想される。

　投資グループと経営陣の議論は、常に「ing」の状態にある。バーゲニング・パワー確保には、結果を残すことが大前提であり、結果を伴ったスピードが求められている。

　もちろん、増資後には、新株主の立場を代表する取締役も派遣される予定。

　「少なくとも3社から１人ずつ。構造改革路線が変わることはないが、ガバナンスは変わる可能性もある」と三洋関係者は指摘する。

　さらに「5年、10年とは（株式を）持たないだろうし、2年という（三洋側の）希望がかなえられるかどうかも、わからない。少なくとも1年以上は持っていてもらいたい」という言葉も聞こえてくる。

　最初の関門をクリアしても、残された時間は長くはない。周回遅れとなってしまった三洋電機にとって、構造改革の成果と明確な収益構造を打ち出すまでのタイムリミットは、2年未満ということだ。 山本雅則●取材／文