「ソフト業とは何か」を議論しよう

　情報サービス／ソフトウェア業の体質強化策は、1970年代から30年越しの議論を経てもなかなか落としどころが見つからない。もとより需要や技術が急テンポで変化するなかでの議論なので、おそらく結論は出ないし、結論を期待するのが無理ということは誰もが理解している。さりとてこのまま済ますわけにはいかないということも事実である。

　システム開発における人月単価見積もり、プロジェクト管理、プログラムのバグ、システムの品質などを定数的に提示できないなど、先送りになっている課題も多い。ソフト開発に必要な技術やノウハウが属人的であり過ぎ、知的財産として企業に蓄積されない。受発注が多重化し、偽装請負や二重派遣が横行している。

　こうした指摘は、一面において的を射ている。しかし何ごとにも通じることだが、欠点をあげつらい、批判するのは簡単だ。ソフト業の存在価値そのものを否定するのならそれでいいかもしれないが、現実にいま必要なのは、われわれはどこに向かうべきかという議論を起こすことと、仮説でもいいから「かくありたい」と考える姿に昇っていく道を探ることではあるまいか。

　その観点から業界で議論してもらいたいのは、「ソフト業とは何か」ということである。システム設計やプログラム作成の技術が属人的であるため、技術提供がすなわち技術者派遣にならざるを得ないというのも一つの論点だし、それを工学的手法に落とし込んでできるだけ属人性を排除すべきというのも論点だ。

しからばソフト技術者は社員として企業に所属すべきか、登録制で個人事業主の要員を集めて案件ごとにチームを編成する方法でもいいのか、という議論が発生する。技術者のスキルは企業の知的財産とどのような関係にあるべきか、ソフト会社の資産とは何か、という議論が発生するかもしれない。あるいはまた、地域の産業や人々の生活を支えるシステムの担い手はどうあるべきか。突き詰めればそれは、ソフト会社は何をもって産業や社会に貢献するのか、ということに結びつく。

建築業界には建築基準法や耐震強度を数値化する手法があり、食品業界には衛生管理に関する法律がある。有資格者の独占をどこまで許すのかの議論はあるにせよ、情報処理技術者資格が公認会計士や弁護士、建築士など「士業」になり得ないのはなぜか。タクシー業や運送業は許認可制なのに、なぜソフト業は野放しなのか。ソフト業の枠組みを業法でかたちづくるべきではないか。

ICタグやインターネットに代表されるように、情報通信技術が特殊なものではなくなったいま、情報サービス／ソフトウェア業をどう定義するか、非常に難しい。「ＩＴをベースにビジネスを展開している企業、すなわちＩＴサービス業」という括りを敷衍すれば、金融・証券業は立派なＩＴサービス業ということになる。

　境界があいまいで参入障壁や規制がないからこそ、次の発展があるともいえるし、野放しのままでは産業論・産業政策が成り立たないともいえる。現実に即した活発な議論が求められる。