視覚障害者受験の体制充実を

　IT技術者の知識と技能を試験・認定する「情報処理技術者試験」。経済産業省が進める国家試験だけに認知度は高い。その受験者数は民間企業やNPOが運営する認定試験よりもはるかに多い。情報処理技術者試験は、14に区分けされた試験項目があり、今年からセキュリティに特化した試験問題も組み込まれた。

　ただ、視覚障害者にとってこの国家試験の受験には、民間試験に比べ高い壁がある。

　情報処理技術者試験は現在、目の不自由な技術者でも受験できるように、試験問題の拡大コピー版が用意されているほか、点字化した試験問題で受験でき、受け入れ体制を整備している。ただ、民間企業やNPOの認定試験体制に比べ、バリアフリーに優れているとは言い難い。

　Linux関連の技術者認定試験「LPIC」を手がけるNPOのエルピーアイジャパン（LPI─J）では、視覚障害者向けに点字化した試験問題に加え、パソコンによる受験が可能になっている。LPI─Jだけでなく、ITベンダーが手がける認定試験制度でも、パソコンでの受験が可能なものが複数ある。パソコンによる受験は、画面上にある文字を音声として読み上げるソフトを使って、試験問題を音声化。読み上げられる問題の回答をパソコンで入力することで受験する。全盲の技術者でも受験が可能なわけだ。

　音声読み上げソフトの精度が高まっていることから、視覚障害者でもパソコンを使って仕事をしたり、ネットサーフィンを楽しむ人は増えている。SEやプログラマとしてIT産業界で活躍する人材もいる。それにもかかわらず、情報処理技術者試験は、点字を読めない視覚障害技術者の受験を受け入れる体制が整っていないのだ。

　生まれつき全盲障害を抱える、ある大手コンピュータメーカーのSEに面会する機会があった。メーカーに勤めて約10年、SEとしてデータベースの開発などに携わってきた彼は、「LPIC」のレベル2を取得しているほか、「XML Master：プロフェッショナル」、サン・マイクロシステムズのJava関連の技術者認定資格を2種、日本オラクルの「ORACLE MASTER 9i Platinum」の認定資格を持つ。だが、情報処理技術者の資格は当然ながら持っていない。「経済産業省などにパソコンでの受験を可能にして欲しいと頼んだが、実現していない。役人は腰が重すぎる」と憤りを隠さない。

　情報処理技術者試験を運営する情報処理推進機構（IPA）によると、「ここ数年検討はしているが、パソコン上で受験できる体制が整っていないため見送っている。現段階でも予定はない」と素っ気ない。

　厚生労働省によれば、視覚障害者は33万人で、うち就労者は約7万2000人という。そのなかでSEやプログラマなど「専門技術的職業」に就く障害者は、約5000人でしかない。視覚障害を持ち、しかも点字受験ができない技術者の数は決して多くないかもしれない。だが、視覚障害者が受験する環境が、国家試験よりも民間企業やNPOのほうが整っているのは、どこかおかしい。