2007年の保守サービス産業は、昨年に引き続きはっきりしない空模様となりそうだ。ハードの保守サービス事業は、サービス単価が下げ幅こそ縮小したものの下落傾向から脱しきれず、売上減は必至。ただ、ハード保守の売上高は各社共通して全体の50%を割り込み、半分以上をシステムのアウトソーシングや遠隔監視などの運用サービスとSI事業が占める。この分野は成長領域であり、SE力と営業力があればハード保守の低迷を補うことも可能。晴れとなるかは、ハード保守以外のITサービス領域の伸び次第だ。(木村剛士●取材/文)
ハード保守からの転換探る
サービスの伸長で晴れに転じるか
サーバーやPCなどのハード保守サービスは、今後も縮小を余儀なくされるだろう。保守サービス単価は、ハード価格に比例するのが一般的。オープン化の進展でサーバーの価格が下がり続けているだけに、サービス単価の下落は避けられない。各コンピュータメーカー系列の保守サービス会社トップの声を総合すると、下げ幅は、「昨年度比で5-10%減」という状況が続いているようだ。
NECフィールディングの片山徹社長によれば、「サービス単価の下落幅は2年ほど前に比べ縮まった」としているものの、「今後も下落するのは間違いない」と厳しい表情を示す。富士通サポート&サービス(Fsas)の前山淳次社長も、「サービス単価がハード価格に比例する価格体系は仕方がない」と語る。
そのため、売り上げが下がっても利益をしっかりと稼げる体制づくりに力を注ぐ。Fsasが昨年、CE(カスタマエンジニア)の業務効率化をめざして、それほど専門知識が必要ないPCやプリンタなどの修理を扱う拠点「PCエキスパートセンター」を設置し、その専門人員を組織化したのも生産性向上、収益確保の一環だ。
保守サービス事業の落ち込みを食い止める方法は、サービス提供体制の効率化だけではない。ハード保守は縮小傾向をたどるが、ソフトウェアの保守サービスは今後成長が見込める。
SIerとしては、顧客のシステム構築が終わったあとは担当SEを早期に次の案件に回すために、保守業務を他社に委託したいのが本音。そのため、ハードだけでなくソフトのトラブルなどにも対応できる体制をつくれば、SIerから保守サービス業務を受託するビジネスが生まれてくる。
保守会社各社はこの需要を見越して、ハードだけでなくOSやミドルウェア、アプリケーションにも精通する「アドバンストCE」と呼ばれる人材の育成に躍起だ。たとえばNECフィールディングでは、アドバンストCEを現状の500人から2-3年以内に1000人規模に増やす計画を立てている。また、ソフト技術力を磨くためにISVとのアライアンスづくりにも積極的に取り組む。
とはいえ、保守サービスの売り上げは「維持」こそ見込めても、「成長」は考えにくい。成長エンジンとなるのは、保守以外のビジネス領域であるITサービスやSI事業だ。各社ともに保守事業が占める割合はすでに全体の50%を割っており、半数以上がITサービスとSI事業になっている。この分野をどれだけ伸ばせるかが業績を大きく左右する。
ITサービスとは、ハウジングやホスティングなどのITアウトソーシングや、顧客先にSEが常駐してシステムのトラブル処理などを手がける常駐型メンテナンスサービス、顧客のシステムをネットワークを通じて遠隔監視するサービスなどを総称して指す。
Fsasは、富士通と共同でシステム運用サービスの体系化を計画。システムのライフサイクルマネジメントをコンセプトに、運用サービスを分かりやすく提案できるメニューをつくろうとしている。日立製作所系保守サービスの日立電子サービスは05年、オープン系システム構築に強い日立オープンプラットフォームソリューションズ(日立OPSS)を吸収した。SE力を増強し上流工程のコンサルティングやシステム構築を伸ばすための体制を整え、組織体制も抜本的に見直した。
NECフィールディングは、システム運用サービスが思うように伸びていない現状から、営業力とSE力の強化をポイントにNECグループとの協業関係を強めている。営業力ではNEC本体に200人ほど営業担当者を送り込んで、共同営業体制を確立している。システム構築後に運用サービスや保守業務を獲得しようというわけだ。SE力では、NECソフトとの連携を強めている。片山社長は以前から「システムのライフサイクルの一部を切り出した事業体制には無理がある」と話しており、SE力の重要性を説いている。
ITサービス分野は今後成長が期待できるが、サービス提供および営業の体制に各社課題を抱える。ハード保守事業の低迷により保守サービス業界全体の空模様は「曇り」だが、ITサービス分野の強化に奏功した企業は「晴れ」に転じる可能性が十分にある。

保守サービス会社が持つ全国網のサービス拠点と数千名規模のカスタマエンジニア(CE)は強み。CEが修理やメンテナンス業務だけでなく提案・営業力が身につけば既存顧客に対しての物販や運用サービス、SIが獲得でき、業績拡大に貢献する可能性がある。
保守サービスの単価下落はハードのみで、ソフトウェアサポートは若干伸びつつある。また、ハードの保守サービス単価の下落が落ち着つく傾向もみられる。ハードだけでなくソフトウェアのサポートまで領域を広げれば、サービス単価の下落を抑える要因にはなりそう。
保守サービス単価の下落は今後も回復することは考えにくい。年率5-10%でサービス単価は下がるが、一方で対応機器は増えていく。いままで以上のサービス提供体制の効率化が必要になる。「成長」よりも現状の売上高を「維持」するのが大変なほどだ。他の事業部門で増収増益を図らなければ全体の業績向上は難しい。

●依然続く保守サービス単価の下落。低価格サーバーの普及で、現在も年率10%前後でサービス単価は下がっているといわれる。
●6月、NECフィールディングの社長にNECのパソコン事業を指揮してきた片山徹氏が就任した。減収減益に歯止めをかけられるか、注目を集めた。
●富士通サポート&サービス(Fsas)が保守サービス体制見直しのため、パソコンやプリンタの保守を手がける専門部署「PCエキスパートセンター」を設立。07年はさらに拠点数を増やす計画だ。
●日立電子サービスは1月、グループ会社6社を吸収。昨年行った日立グループのSI会社との統合に加え、本社機能の強化を一層加速させた。
●ITサービスは7月、通信サポート&サービス事業部門と機器サポート&サービス事業部門をそれぞれ東芝グループ会社へ移管。情報サポート&サービス事業に集中する体制に変えた。