経済産業省は中堅・中小企業のIT化を支援する事業の一環として来年度、「IT経営力大賞」（仮称）を創設する。昨年10月に開催した第2回「IT経営百選」をより発展させたものだ。ITを活用して経営を革新したり、生産性を向上させたりした成功事例を集めて表彰。モデル事例として公開することでIT化支援に役立てる。すでに延長を決めているIT経営応援隊事業の一環として、年内をめどに第1回目の開催を目指す。

　今回創設するIT経営力大賞では全国版と地域版の2つのカテゴリーで賞を設けることを検討する。昨年までのIT経営百選は全国版が中心で、一部地方のみで地域版の表彰を行っていた。

　全国版のみの開催では総合力や体力のある実力者が上位を占め、かつ総花的になりやすい傾向があった。地域版を併せて表彰することで、例えば“地域の産業特性に見合った事例”や“生産管理システムなど部分的に非常に優れている事例”など、より実践的なモデル事例を増やしやすくなる。地域に密着した身近な事例を増やし、中堅・中小企業がすぐに実践できるよう実用的な事例を数多く詳細にわたって公表することが、IT化推進に役立つとの判断からだ。

　選考基準もより明確化していく。これまでのIT経営応援隊の活動などから導き出したIT活用型経営の成熟度を示す“IT経営力指標”を新たに策定。これをベースに選考の迅速化を図る。昨年のIT経営百選では、選考に時間がかかるなどが課題となっていた。また10月の開催をあらかじめ決めていたことから時間的な余裕もなかった。こうしたことから、目標にしていた300事例に届かず、160事例の選出にとどまった。IT経営力大賞では選考作業を効率化し、時間的余裕を確保することで300事例の創出を目指す。

　IT経営力大賞の推進母体であるIT経営応援隊は、今年度（2007年3月期）で終了する予定だった。だが中小企業のIT化はまだ不十分との声が根強くあることから延長を決めた。今年度までの3年間はIT活用型経営の重要性を“気づいてもらう”ことに重点を置いた活動を展開してきたが、「来年度からはIT活用型経営を“実践”してもらう」（夏目健夫・商務情報政策局情報化人材室室長）ことを重視する。延長年数は未定だが10年度をめどに“実践”の成果を出していく方針だ。

　政府が打ち出した「IT新改革戦略」では10年度までにIT活用型経営の成功事例を1000事例以上創出することや、基幹業務にITを積極的に活用する中小企業の比率を60％以上にするなどの目標を掲げる。IT経営応援隊ではこうした政府目標に沿って事業を展開する。中堅・中小企業がITを活用して競争力を高めることの重要性から、来年度の同事業の関連する予算は今年度比約16％増の約5億円を想定しており、人材育成などに投入する予定。

　事業の推進にあたっては、従来通り全国約7000人のITコーディネータなどに協力を要請する。同時に中小企業の経営者を対象にしたより実践的な研修を増やしたり、IT活用型経営に精通した「IT経営マイスター」（仮称）と称される人材の育成にも力を入れることを検討する。

　外部人材であるITコーディネータと内部人材である経営者やIT経営マイスターとの連携をより強化することで、中堅・中小企業のIT化を加速させていく考えだ。