大手SIerの富士ソフト（野澤宏会長兼社長）は持ち前のコンピュータ技術を生かしてデジタル映像事業を拡大させる。5年後に年商100億円の事業に育てる計画を明らかにしているが、「100億円は保守的な数字」（同社）と強気だ。社内では映画やテレビドラマなどの制作に関与したり、本業の組み込みソフトなどとの相乗効果を出していくことで計画の“上方修正”を狙っている。

　デジタル映像事業は3年前の2004年頃から準備に着手し、今年2月の富士ソフト秋葉原ビルの竣工とともに本格的に立ち上がり始めた。総事業費約450億円を投じた秋葉原ビルは最先端のデジタル技術を駆使した撮影スタジオや編集室を持ち、かつ大規模なデータセンターも備える。ビル全体が「デジタル映像を世界に向けて発信する」（石田正樹・ソリューション事業本部副本部長）ためのインフラになっているのが特徴だ。

　当面はスタジオ設備の貸し出しや映像コンテンツの受託制作などが柱となる。“5年後年商100億円”の事業計画もこの範囲内で積み上げた数字だ。すでに“5年間の長期契約で借りたい”という引き合いがくるなど「商談は順調に進んでいる」ようだ。受託制作ではインターネットショッピングやeラーニングなどに使う映像コンテンツの受注に手応えを感じる。

　だが、設備の貸し出しや受託制作のみでは売り上げに限界があり、利幅も限られる。このため将来構想のひとつとして映画やドラマの制作に自ら進んで関与していくことも視野に入れる。制作に直接かかわれば、作品がヒットしたときに多額のロイヤルティーが見込める。当面の事業計画には織り込んでいないが「やろうと思えば、いつでもできる」と石田副本部長以下、主に映像業界から転身してきた40人規模の専任スタッフとともにビジネスチャンスをうかがう。

　またデジタル映像事業で培ったノウハウは富士ソフトの既存事業のひとつである組み込みソフトとの相乗効果が期待できる。たとえば特殊な音声処理が可能な独自のミドルウェアを携帯電話に組み込み、音声や音楽の再生品質を高める。あるいはインターネットによる映像配信をスムーズに家庭用デジタルテレビに映し出すミドルウェアの開発など応用の範囲は広い。既存事業との連携を密にして相乗効果を狙う。

　秋葉原ビルの強みはデータセンターと直結し、超高速の光ファイバーでインターネットに送り出せる環境を備えている点にある。撮影スタジオそのものはテレビ局や映像制作会社などがすでに持っているが、インターネットと結合させたデジタル技術に関しては「今考え得る世界最先端の技術を結集させた」（丹内俊浩・デジタル映像部スペシャリスト）と、既存のスタジオとの差別化を図った。こうした強みをフルに生かしながら事業拡大を目指す。