支店開設でDB市場切り崩し
6月13日、マイクロソフト(ダレン・ヒューストン社長)は、中期経営計画「PLAN-J」の一環で北陸支店(石川県金沢市)を開設した。主な目的は他支店と同じで、地場の顧客やパートナー、公共団体と親密な関係をつくり、北陸地域のビジネスと社会貢献を活発化させることにある。ただ、北陸支店には、他の拠点にはないミッションがある。それは日本オラクルの牙城崩しだ。北陸地域のデータベース(DB)市場は、日本オラクルが圧倒的に強くマイクロソフトは後塵を拝している。北陸支店はマイクロソフトの他支店と同じ目標達成を目指しながら、DB市場での業績拡大という特別のミッションを進めていくことになる。ソフトの両雄が北陸でも火花を散らす。(木村剛士●取材/文)
■打倒オラクルの前線基地 北陸支店の開設は、マイクロソフトが進める地方への支店開設の一環で、今年2月にオープンした北関東支店(群馬県高崎市)に続く第二弾。7月上旬には香川県高松市に四国支店を設け、来年は沖縄県那覇市に沖縄支店を開設する。地方の顧客やパートナー、公共団体との接触を密にし、ビジネスの拡大と社会貢献活動を活性化させることが、支店共通のミッションだ。「地方の顧客やパートナーにもっと“顔を見せていく”」(樋口泰行・代表執行役兼最高執行責任者)というわけだ。北陸支店は、石川、福井、富山の3県を担当する。
北陸地域の市場規模は、マレーシアのGDP(国内総生産)に匹敵する。この地区には、重機メーカーのコマツが工場を複数設け、IT産業界ではインテックやアイ・オー・データ機器、ナナオ、PFUなどが本社を設置。ITベンダーは520-530事業所あるといわれる。主要顧客やパートナーが多く、「ITビジネス成長の可能性が大きい」(ヒューストン社長)。マイクロソフトの北陸市場でのビジネスは、「過去10年間、全国平均とほぼ同じ成長率で順調」(眞柄泰利・執行役専務ゼネラルビジネス担当)だが、今回の支店開設を機に一気に拍車をかけようと目論んでいる。中林秀仁・北陸支店支店長は、挑戦的なビジネス目標を掲げ、2010年までのライセンス売上高の年平均成長率は20%、登録パートナーは現在の121社から250社に、技術者は334人から1000人に増やす計画をぶち上げている。
■圧倒的な差をいかに詰めるか 北陸支店がビジネス目標をクリアするために重要な商品は、サーバーOSやアプリケーションではなく、DBだ。北陸地域のDB市場は、日本オラクルが圧倒的に強い。日本オラクルは10年以上前に金沢市に支店を設置。先行メリットを生かして現在の地位を築いた。北陸地域の有力SIerである富士通北陸システムズは、「ORACLE MASTER」の最上位資格「Platinum」を10人以上が取得。オラクルのシェア上昇に大きく貢献している。オラクルは、有利な状況に甘んじることなく昨年4月に北陸地域の技術者に限った会員登録制コミュニティを発足。情報交換やパートナー向けサポートの充実を図るなど地域深耕に余念がない。
中林支店長は、記者会見後の雑談で「北陸3県で当社製DBに対応するソリューションパッケージはオラクルの5分の1しかない。有資格者はそれ以下」と、ため息交じりに話す。
DBに対応する製品数と資格者数は、商品の浸透度を測るバロメーターになる。それだけに、中林支店長の発言は日本オラクルの後塵を拝している状況を如実に物語っている。
北陸支店が事業拡大するには、オラクルの壁は避けては通れない。中林支店長は具体的な切り崩し策を明言しなかったが、北陸支店が大胆な販売施策に打って出るのは間違いないだろう。
一連の支店開設戦略の一環としてオープンした北陸支店は、DB市場でのシェア争いという大きな観点でも、重要な役割を果たすことになる。
地元企業との懇親パーティーは盛況
来賓には石川県知事も マイクロソフトの支店開設は9年ぶりで、「主要商圏だけでなく地方の顧客やパートナーを重視するヒューストン社長だからこそ実現した」と、古くからマイクロソフトに在籍する関係者は明かす。ヒューストン社長は、北関東と北陸支店開設時に現地に足を運び、地元企業・団体と懇談。北陸支店開設ではCOOに就任した樋口泰行氏も顔をみせた。地方にかける同社の意気込みが感じられる。
この想いが通じたのか、開設同日に開催した地元企業・団体を招いた懇親パーティーは盛況だった。約200人が参加して、マイクロソフトからはヒューストン社長や樋口COO、眞柄専務など幹部が勢ぞろい。樋口COOは挨拶の冒頭で「ダイエー在籍時は金沢店の閉鎖でご迷惑をかけました」と切り出し、会場を沸かせる一幕も。来賓挨拶では、アイ・オー・データ機器の細野昭雄社長が石川県情報システム工業会(ISA)会長として登壇したほか、谷本正憲・石川県知事も登場。「マイクロソフトと石川県がともに発展するよう協力していきたい」と期待を示した。マイクロソフトの顔を北陸に見せる活動はまだ始まったばかりだが、まずは順調なスタートを切ったというところだろう。