メーカーの投資意欲が沈静化

大手SIerはビジネス伸ばす方策練る

　組み込みソフト市場に異変が起きている。主力の携帯電話や情報家電メーカーの投資意欲に陰りがみえるなど、ここにきて伸びが鈍化する兆候が現れてきた。これまで順調に需要が拡大してきただけに、組み込みソフト開発を手がける大手SIerは焦りを隠せない。仮に市場の伸びに黄信号が灯ったとしてもビジネスを拡大できるよう、あの手この手の方策を練るのに大わらわだ。（安藤章司●取材／文）

■携帯、情報家電が鈍化

　活況だった組み込みソフト市場に陰りが見え始めている。今年に入って「携帯電話の大型開発プロジェクトが減少し、薄型テレビの開発競争も一巡した」（大手SIer幹部）など、かつての活気が薄れる傾向がみられるようになった。携帯電話はナンバーポータビリティ制度に合わせた新規機種が続々と開発され、情報家電は薄型テレビ市場の爆発的な拡大によって大いに潤ってきただけに、“需要の急変”に組み込みソフトを手がける大手SIerは戸惑いを隠しきれない。

　携帯電話は飽和状態に入っており、薄型テレビも地上デジタル放送に切り替わる2011年の特需が確実視されるまで動きは鈍いとみるSIerも出てきた。依然として好調なのは自動車関連だが、自動車メーカーの系列ソフト会社などは中核部分を自前で開発するケースが多く、外部のSIerに委託する比率が今後増えるかどうかは不透明である。

　情報処理推進機構（IPA）が6月27日に発表した「2007年度版組込みソフトウェア産業実態調査」によれば、昨年の国内の組み込みソフト開発の市場規模は前年比19.8％増の3兆2700億円と大幅に拡大した。ただ、これにはメーカーグループ内の組み込みソフト開発も含まれており、この伸びが直接、SIerのビジネスにプラスに働くわけではない。

　近年では、「メーカー系列のソフト開発部門が実力をつけており、他メーカーの仕事を請け負うこともある」（別のSIer幹部）という。さらに今年に入って、携帯・情報家電の関連需要の雲行きが怪しくなってきたことから、「このまま行くと、組み込みソフト事業の売り上げを伸ばすどころか、どう現状を維持するかを考えなければならない」と頭を抱える状況だ。

■抜本的な見直しに着手

　こうした厳しい市場動向を受けて、大手SIerではビジネスモデルの抜本的な見直しに着手した。

　従来はメーカーから組み込みソフトの案件を受託して開発する請け負い型や、メーカーに常駐して開発を行う客先常駐型が売り上げの中核部分を占めるケースが多かった。しかし、これでは需要変動の影響を受けやすく、他社との差別化も難しい。市場が飽和して競争が激しくなると、同業他社との価格競争に巻き込まれる危険性も高い。

　そこで出てきたのが、組み込みソフトのパッケージ化、モジュール化の戦略である。SIer自ら仕様を決めてミドルウェアなどをパッケージ化し、メーカーに売り込む方式だ。多くは採用が決まった時点でライセンス料をメーカーから徴収し、かつ最終製品が売れた台数だけ一定のロイヤリティ（知的財産権の使用料）を得る契約を結ぶことで収入の安定化を図る。

　大手SIerの富士ソフトでは、携帯電話とデジタルテレビの分野で先行的にオリジナル組み込みソフトパッケージ製品の開発に乗り出した。もともと強い分野でもあり、「ワンセグ放送や電子マネー、カメラ機能など最新の携帯電話に必要なソフトをすべて開発できる」（三本幸司・取締役）ノウハウを生かして、主にミドルウェアを中心としたパッケージ化を急ピッチで進める。テレビでもデジタル放送技術のノウハウをパッケージ化し、同様の展開を狙う。

　組み込みソフト開発大手のコアは、ハードウェアやドライバソフト周りの強みを生かして、独自のGPS（全地球測位システム）チップの開発を専業ベンダーなどと協業して進める。「すでにカーナビや携帯電話のメーカーから強い引き合いがきている」（詰素之・取締役専務執行役員）と手応えを覚える。

　両社ともにライセンス販売とロイヤリティ収入の二段構えのビジネスモデルの構築を目指しており、従来の受託開発に過度に依存するモデルからの脱却を推し進める。

■多角化の動きも活発化

　一方、事業の多角化を図る動きも顕在化している。富士通ビー・エス・シーはこれまで、組み込みソフト事業のなかで携帯電話関連の売り上げ比率が半分余りを占めてきたが、今後は「堅調な伸びが見込める自動車関連の受注拡大に力を注ぐ」（廣澤満治・取締役）と、収益の柱を増やすことで安定成長を目指す。

　シーイーシーは、開発した組み込みソフトに不具合がないかを検証するビジネスに力を入れる。品質管理こそ「設計や開発のすべての総合的なノウハウが求められる付加価値の高い分野」（橋村清海・取締役）として受注拡大を狙う。

　品質管理の技量がメーカーから認められれば、上流工程である「設計分野に参画するチャンスも増える」とみている。

　組み込みソフトは一般企業で使う業務ソフトと異なる部分も少なくない。ただ一方で“開発を受託してプログラムを組むだけでは付加価値が高まらない”という点は共通している。

　組み込みソフトは急速に市場が拡大し、人手不足感が強まっていたこともあり、ややもすればSIerのビジネスモデルの再構築が遅れていた感も否めない。ビジネスの主導権を握れない受託開発だけに依存していては早晩立ちゆかなくなるのは明らかである。

　自らの得意分野を明確にし、独自のパッケージやサービス商品を早急に打ち立て、有利にビジネスを展開する戦略が強く求められている。

【チャンスの芽】
・世界に通用する独自商品、サービスでビジネスの主導権を握れ。
・伸びる業界に素早くリソースを移動。狩猟民族型で勝ち残る。
・ロイヤリティビジネスは組み込みならではの収入の道。積極活用せよ。