マイクロソフト(ダレン・ヒューストン社長)は今年度(2008年6月期)、中堅・中小企業(SMB)に直接訪問する専任部隊や主要パートナー各社に応じた戦略を企画する「チャネル開発本部」などの組織を設置した。今年度からSMB担当責任者を兼務する樋口泰行・代表執行役兼代表執行責任者(COO)がこのほど、本紙の取材で明らかにした。「顧客接点が不足し、期待に応えられていない部分がある」と、SMBでもソリューションを伴う案件に直接関与するため、クライアントPCとOffice製品を組み合わせた提案を企画する新部隊も立ち上げた。欧米に比べIT化の遅れが目立つ国内SMBを攻略する構えだ。
樋口COOが構想を示す
チャネル開発本部も

マイクロソフト(ダレン・ヒューストン社長)は今年度(2008年6月期)、中堅・中小企業(SMB)に直接訪問する専任部隊や主要パートナー各社に応じた戦略を企画する「チャネル開発本部」などの組織を設置した。今年度からSMB担当責任者を兼務する樋口泰行・代表執行役兼代表執行責任者(COO)がこのほど、本紙の取材で明らかにした。「顧客接点が不足し、期待に応えられていない部分がある」と、SMBでもソリューションを伴う案件に直接関与するため、クライアントPCとOffice製品を組み合わせた提案を企画する新部隊も立ち上げた。欧米に比べIT化の遅れが目立つ国内SMBを攻略する構えだ。 樋口COOは、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)社長、GMSのダイエー社長を経て、今年3月15日にマイクロソフトへ転身した。今年度は、代表執行役とCOOのほか、SMB向けビジネスを統括するゼネラルビジネス担当の責任者を兼務。「デジタルワークスタイル」と呼ぶSMB向けの事業領域を担う。
同社によると、日本は米国に比べ、SMB市場のIT化が3分の1と遅れているという。このため「まだ期待に応え切れていない部分がある」(樋口COO)と判断、同社でLOM(ラージ・オポチュニティ・マネージャー)と呼ぶソリューション提案を必要とする既存顧客や見込み顧客に、パートナーなどと直接訪問する部隊を東京・本社と全国10支店などに新設した。
従来はテレセールス部隊が拾い上げたLOM案件に対し、直接訪問する担当は存在していたが、専任にして自ら活動する部隊を立ち上げたのは同社初。競合の日本オラクルには「Oracleダイレクト」という似た制度があるが、「日本オラクルより規模が小さい企業にも訪問する」(樋口COO)と、中小企業に対してより手厚い支援を行う。
SMBや大企業向けに具体的な提案をするため、インフォメーションワーカー向けにクライアントPCを使ったソリューション提案を企画する部隊もゼネラルソリュショーン営業本部内に新しく設けた。クライアントPCに加え、「Microsoft Office」や「Dynamicsシリーズ」のCRM(顧客情報管理)とERP(統合基幹業務)など業務システム、サーバー製品などを組み合わせ、顧客に応じたソリューションを揃える。
ソリューションを共同提案するパートナー施策も強化する。マイクロソフト製品を大量に販売する各パートナーに応じてマーケティング施策を提供する「チャネル開発本部」をビジネスパートナー統括本部内に設置し、外資系大手ベンダーから責任者を登用した。この部隊では、SIer個別に得意分野向けの共同プロモーションをして、重点製品を拡販したり、コールセンターを設けてライセンス販売のバックアップを行う方針だ。樋口COOは「顧客に対しても、パートナーに対しても満足をしてもらうだけの施策が展開できていなかった」と、日本HP時代の経験などを基に、自らの判断で強化策を相次ぎ打ち出したようだ。
前職の経験生かし
“樋口色”鮮明に打ち出す
7月9日に東京都内のホテルで開いたマイクロソフトの「新年度経営方針説明会」では、本紙1面で触れた“顧客への訪問部隊の新設”といった新施策のほか、新製品を出荷する前のローカライズ(現地化)や、顧客に提供する前の検証などを充実させて品質を高める「品質担当」を配置したことなど独自の新戦略を公表している。就任4か月で早くも“樋口色”が鮮明になったわけだ。
樋口COOは「クライアントPCは、以前に比べて企業内での利用率が低下しているような気がする。クライアントPCと当社のソフトウェアを有効利用できる手立てを打つ。西欧に比べ日本は、企業内の生産性が劣る。日本企業のデジタルワークスタイルをイノベーションできるかどうかが課題」と述べるように、日本HP時代にパソコン販売を担当した経験が生かされていることがうかがえる。
マイクロソフトは、中堅・中小企業へ自社製品の浸透が思うように進まないことを懸案事項にしてきた。全国の地場SIerやディーラーなどを組織した「IT推進全国会」やウェブサイトの「経革広場」で導入方法を提案するなど、地道な戦略を打ち出してきたが、なかなか欧米並みに自社製品が行き渡らないという苛立ちを隠せない様子だ。
先ごろ、KDDIと連携してのSaaS(Software as a Service)環境での業務アプリケーション提供に関しても「ソフトウェアとSaaSなどのサービスをプラスして、いろいろな提供方法が考えられる」と、SaaS提供に備えたライセンス体系の見直しの必要性を示唆した。
今回の樋口COOが打ち出した新戦略は、地味ではあるが、これまでマイクロソフトが見落としてきた施策でもある。この戦略でどこまでSMBを開拓できるか注目される。(本紙編集長・谷畑良胤)