中国・深センの新工場を初公開

　プリンタメーカーの沖データ（前野幹彦社長）は、今年1月に移転・稼働を開始した中国・深センの新工場を報道陣に初めて公開した。オフセット印刷並みの解像度で高性能な同社独自のLED（発光ダイオード）プリンタは、部品や生産コストがレーザープリンタに比べ高いという課題を抱えていた。部品調達や生産の効率化を図り、高コスト体質を見直すことで、LEDプリンタの粗利益率を上げるために、新工場は重要な役割を果たしている。2006年度（07年3月期）は、プリンタ全体で世界生産高の約25％に当たる20万台を生産。同社は、高機能機を中心にこの生産体制を1年以内に現在の2倍以上に増やす計画だ。（谷畑良胤（本紙編集長）●取材／文）

■生産能力は旧工場の3倍に

　新工場を管理・運用する沖電気実業（深セン）有限公司（OSZ、杉本晴重・代表取締役会長）は01年7月に設立された。現在では沖電気工業と沖データが沖電気香港有限公司を通じ、100％出資している。旧工場では、同年10月にATM（現金自動預払機）の量産を、02年7月にドットインパクトプリンタの生産を開始した。05年6月からは、急速に拡大するカラーページプリンタ市場へ対応するため、A3機の高速カラーLEDプリンタ「MICROLINE 9000シリーズ」を、翌年1月からA3機の低速廉価版「C8000シリーズ」を量産してグローバルに供給してきた。

　だが、カラーページプリンタの年間出荷台数が急増し、これ以上増産するうえで生産能力が限界に達していたため、生産ラインを確保できる新工場へ移転した。新工場は、4階建てで敷地面積3万6000平方メートル、延べ床面積は旧工場の2倍以上、5万2000平方メートルを有する。このうち、プリンタ工場は延べ床面積3万2000平方メートルで、生産能力はこれまでの3倍に当たる年間60万台までに拡大できるという。

　OSZが移転した中国・深センにある南山区百旺信工業区は、「経済特区」の境界に隣接する工業団地に位置する。この地に生産工場を置く理由について、同工場の三好也・管理部長は「日本のOA機器メーカーに供給する部品や板金のサプライヤが点在する場所で、工場から各サプライヤまで車で1時間以内に行ける好立地にある」と説明する。旧工場時代の05年3月からは、カラーLEDプリンタの生産に新部品納入方式での運用を開始。部品サプライヤと共同で、必要以上の部品在庫を持たない「ジャストインタイム納入方式」を導入している。

　新工場でもこの方式は受け継がれており、工場内にある部品倉庫には、1.5日分までの在庫しか置かれていない。基本的には、「受注・生産方式」で「部品供給は、3週間前までに必要な数量をサプライヤに打診して確定させる」（佐野浩章・プリンタ事業部長）と、「多品種少量生産」に対応するためのコスト削減策と生産効率アップに徹底して取り組んでいる。カラーLEDプリンタの部品コストは、05年度に比べ、約9％削減できたという。

■潤沢な人的資源が魅力

　プリンタ工場の生産方式は、単機能プリンタが4人1組体制、複合プリンタが5人1組体制の「セル方式」。一方通行の各ラインには検査担当がいて、不良品を発見すると、天井の回転灯が点滅して、原因が究明できるまで生産ラインを停止させる。「不良品を出さない、作らない」という方針で、無駄を極力省く生産体制を敷いている。

　従業員は高校卒業以上で、ATM生産を含め1764人（06年6月現在）。時給は950人民元で、同地区の最低賃金である810人民元（時給）に比べ高く、同地区の他企業と比べても高給だ。1年間で従業員が一巡するほど離職率が高いが、「人員は募集すればすぐに集まるほど潤沢な地区」（佐野部長）と、この地に居を構えた効果を語る。

　旧工場時代から取り組んだ「ジャストインタイム納入方式」により、04年度に比べ、06年度は部品倉庫と仕掛品倉庫の50％、倉庫面積の30％を削減でき、生産現場における「1秒にこだわる効率化」を進め、カラーLEDプリンタ全体の生産効率を76％向上させている。

■拡大する中国の需要に対応

　沖データのプリンタ生産工場は、ほかに消耗品主体の生産工場をスコットランドに、LEDプリンタ工場をタイ、日本、中国に配置している。年間生産台数は、廉価版を主体とするタイ工場が最も多く、OEMプリンタを含め世界出荷の半数を占める。これに対し、中国・深センの新工場では現在、全体の25％を生産するが、「近く、カラーLEDプリンタの新製品の生産を開始する。当社はまだEMS（受注生産専門の企業）へ出す量が多いため、新工場の生産性を現在以上に上げ、EMS分を新工場で賄えるようにしたい」（佐野部長）と、急速に拡大する中国内のプリンタ市場に向け、大幅な増産に対応する計画。トナーを含めたプリンタ関連の生産高は、06年度に比べ40％増える見込み。

　LEDプリンタは、部品や生産コストなどの原価がレーザー方式に比べ高く、コスト削減策が沖データにとって経営上の最重要テーマ。利幅が薄いことで、国内の販社が同社プリンタを「担ぐ」ことを嫌う傾向にある。原価を下げ利幅を厚くすれば、国内外で同社プリンタを流通・卸するベンダーが増えるだろう。そのうえで、中国・深センの新工場での試みは、経営全体を底上げできるかどうかを左右することになりそうだ。