本格的なAI活用時代を迎え、企業のITインフラもそれに合わせた形への移行が始まっている。エンタープライズから中小企業まで、企業のAIインフラ環境はどうあるべきか。そしてSIerや販売店は、どのような観点で提案を行うべきか。サーバーメーカーのレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(以下、レノボ)と、半導体メーカーの日本AMDのキーパーソンに、業務AIインフラ構築の現在と未来について聞いた。
エンタープライズAI活用が本格フェーズに
――国内でのAIの普及や、企業における利活用の状況をどのように見ていますか。
早川(レノボ) 大多数の企業がすでに何らかの形でAIを活用していることは間違いありませんが、会社によって状況は異なります。大企業のお客様に伺っても、自社で最適なモデルを構築して運用するというよりは、クラウド上のAIサービスを活用するケースが多く見られます。まずはマイクロソフトやグーグル、アマゾンなどが提供する生成AIプラットフォームを限定的な範囲で導入し、効果が認められたら全社に広げていこうという動きが目立ちます。
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ
インフラストラクチャー・ソリューションズ・グループ
早川哲郎
Japan ISG CTO
石橋(日本AMD) AI関連は進化が激しく、当社でも通常のCPUは2年に1回新しいシリーズを出すのに対し、GPUやAIシステムは1年単位になっています。お客様の状況としては、大規模な処理環境をクラウド上で提供するGPUaaSベンダーや、自社でAIモデルを持ち社内展開しようとしている企業が目立ちます。ここにきて動きは加速していると感じています。
日本AMD
コマーシャル営業本部
石橋史康
ソリューションアーキテクト
――インフラ構築の視点で、足元のAIサーバー市場をどのように見ていますか。
早川(レノボ) 米国などと比べると、日本のAI向けシステムに対する支出の規模は1年ほど遅れている印象です。現在、国内でAI向けのシステムやGPUサーバーを積極的に導入しているのは、GPUaaSのようなサービスを提供しようとしている事業者が大半です。一般企業はまだその段階になく、業界をリードする企業やイノベーションに積極的な一部の先進企業などにとどまっているように感じます。
石橋(日本AMD) グローバルとの違いは確実にあります。一方で、先進的な会社はすでにAIを使い倒していて、クラウドでのバイブコーディングを実践する中で「毎月何億円も払うならオンプレミスでサーバーを立てた方がいい」と考えつつある、という話も聞きます。今後はそうした会社を中心にAI領域が伸びていくはずで、その際にはAMDも有力な選択肢として評価されるでしょう。
CPUがAI活用でより重要な存在に
――AMDでも業務領域向けに、大規模なAIコンピューティングの普及を意識した製品展開を進めているのでしょうか。
石橋(日本AMD) 先日のAMDイベント「Advancing AI 2026」では、最新AIアクセラレータ「AMD Instinct™ MI455X GPU」やラックスケールAIシステム「AMD Helios™」などを発表しました。ただ、高性能なGPUを搭載したこれらの製品群は、現在すでにAI対話サービスやGPUaaSを提供しているハイパースケーラー向けのシステムであり、一般的な企業が購入できるレベルではありません。
一方で、次世代のサーバー向けCPUとなる最大256コアの第6世代「AMD EPYC™ 9006シリーズ サーバー向けCPU」も同時に発表し、その際に当社のリサ・スーCEOは「AIの新時代が始まる」と述べました。業務ユーザーのエージェンティックAI活用を見据えた発言です。これまでのAI活用は対話型が中心でした。しかし今後、AIは仕事を依頼する相手となり、AIエージェント同士がマシン・ツー・マシンで処理を進めるようになります。そうなればGPUだけでなくCPUの処理も増えます。AIエージェントの暴走を防ぐサンドボックスとしてのCPUサーバーも欠かせません。業務向けAIシステムにおけるCPUとGPUの比率も、現在の1対4程度から1対2、そして1対1に近づいていくでしょう。CPUの重要性はこれから確実に増していきます。AMD EPYC 9006 シリーズもそこを意識した製品なのです。
早川(レノボ) 企業のAI活用は今後、二つの使い分けに向かうでしょう。最新のAIモデルや機能が必要な業務については、クラウド上の最先端環境を活用する。一方で、社内データに基づいた安定した回答や高度なデータ保護が求められる業務については、オンプレミスのサーバーやAI PCで社内のトークンを処理する。こうした形になっていくはずです。
電力問題に対応した水冷ソリューション「Neptune®」
――AI活用が増えると、消費電力が大きな問題になります。そこをどのように捉えていますか。
早川(レノボ) AIが電力問題を引き起こす以前から、コンピューターを構成する半導体それぞれが必要とする電力が上がり続けています。コア数が増えて性能が上がる一方で、それらを搭載するサーバー1台あたりの消費電力も確実に増加しているのです。
石橋(日本AMD) ただ、CPUに関しては上昇率が比較的緩やかで、電力当たりの性能は向上しているため、サーバーを集約するとトータルの消費電力は下がります。一方、GPUはいくらでも性能が欲しい状態で、そこでの消費電力が大きなネックです。ラックスケールのAIシステムは、一般的な1Uサーバーと比べると100倍以上の消費電力がありますから。
早川(レノボ) その結果、すでに従来の空冷方式では冷却が追い付かなくなっています。GPUサーバーと一般的なCPUサーバーの双方で、ハイエンド製品では水冷という選択肢が必要になっている状態です。現在のデータセンターではまだ空冷方式が圧倒的に多いですが、昔からスーパーコンピューター(スパコン)やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を利用している研究所などでは水冷が当たり前に使われています。
こうした背景の中でレノボでは、メインフレーム時代から培ってきた水冷ソリューション「Neptune
®」により、サーバーをファンレスにして電力を抑えるシステムを提供しています。今後は第6世代EPYC 9006シリーズを搭載する完全水冷サーバーの提供も予定しており、AIのワークロードを集約しながら、消費電力を抑えて運用できるようになります。
Top Choice Expressで確実なサーバー調達が可能に
――半導体不足でサーバーそのものの調達が難しくなっているのが現状です。それに対するレノボのアプローチをお聞かせください。
早川(レノボ) レノボでは、サーバーをはじめとするITインフラ製品を確実に調達いただくための「Top Choice Express」というプログラムを用意しています。あらかじめ売れ筋のプロセッサやメモリーなどを組み合わせた推奨構成を用意しており、その範囲から希望する構成を選択してご注文いただくことで、グローバルの工場で10日以内に組み立て・出荷されます。おおむね1カ月で日本のお客様に届きます。ラインアップには、AMDのEPYCを搭載したタワー型サーバー「ThinkSystem ST45 V3」も入っており、人気モデルの1つです。また、販売店やディストリビューターにも一定の在庫を確保していただいており、「すぐにサーバーを導入したい」というニーズに対応しています。
――AIを起点としたビジネスを加速していくにあたり、パートナーにどのような役割を期待しますか。
石橋(日本AMD) 当社は長年x86互換CPUを手がけ、世界的にシェアを拡大してきました。しかし国内ではまだ、ソフトウェアの互換性を気にして利用をためらわれるお客様もいます。実際にはOSはもちろん各種アプリケーションもAMDのCPUをしっかりサポートしているので、そこは安心していただきたい。AIインフラ領域についても同様です。競合と比べてもロードマップやサプライ状況は健全ですし、アーキテクチャーの異なる新興勢力よりはるかに移行しやすい点をお伝えしたいですね。
早川(レノボ) 当社もAMDプロセッサのコストパフォーマンスや電力効率の優位性をアピールし、パートナーの皆様と一緒にAI向けサーバー製品の普及に取り組んでいけたらと考えています。AMDとはHPC領域で良好な関係を築いてきたので、AI時代のエンタープライズ領域でも今まで以上に協力してビジネスの拡大を目指していきます。
石橋(日本AMD) 当社としても、日本市場でAMDのプロセッサを搭載したレノボのAIサーバーの知名度を高め、共に成長できればと期待しています。
CPUシェア46%という「世界標準」に商機
――最後に、AI基盤の導入・活用に取り組むパートナーやユーザーにメッセージをお願いします。
石橋(日本AMD) まずはAMDを使ってみてください。AMDのサーバーCPUの世界シェアは今や46%まで伸びていますが、日本ではまだそこまで至っていません。当社はCPUやGPUの技術に自信を持っています。使ってみれば全く違いがないことをご理解いただけるはずですし、提案の余地もあると思います。もちろんAIの文脈でも競合と比べて遜色ありません。今後、エンタープライズ向けのGPUサーバーもレノボから展開される予定なので、その組み合わせでお使いいただければ、良さを実感するはずです。
早川(レノボ) AMD搭載サーバーを実際に評価してから提案したいと考えているSIerや販売店は、ぜひ当社または当社のパートナーにお声がけください。スパコンやHPCについては、当社かAMDが直接対応いたします。より効率の良いサーバーインフラを国内に広げていくという点で、AMDも当社も同じ方向を向いています。販売店の皆様がエンドユーザーのAI活用を支えていくうえで、有益な情報を提供できるはずです。また、水冷サーバーの専用ラボも開設したので、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。