新規需要開拓の新たな武器に

周辺機器への拡大見込む

　1万円台、2万円台という価格を設定した低価格サーバーが、主要メーカーから販売されている。大手サーバーメーカーが、デスクトップPCの実売価格を大きく下回る価格でサーバーを販売しているのは、日本だけの特殊な状況。低価格サーバーは、メーカー、ディーラー、ユーザーにとって、果たしてどんなメリットをもたらしているのだろうか。（大河原克行（ジャーナリスト）●取材／文）

■本音は「売りたくない」が…

　PCサーバーメーカーの直販サイトを見ると、驚くべき低価格でサーバーがラインアップされている。

　デルでは、PowerEdge SC440を2万4900円で販売すると表示。NECでも、「得選街」と呼ぶ同社直販サイトで、アウトレットと表記しながらも、Express5800/110Gcを1万8690円で販売している。また、日本ヒューレット・パッカードも、ホップ・ステップ・ジャンプキャンペーンとして、最低価格1万8900円で、ProLiant ML110シリーズを販売している。

　各社とも、「利益は出ていないが、赤字ではない」と異口同音に語るように、ギリギリの価格設定であることは明らか。ディーラーの間からも、「営業コストという観点で捉えると、低価格サーバーは扱いたくないのが本音」との声が聞こえてくる。実際、サポート金額の算出は、システム価格を元にはじき出すのが一般的。そのため、ハードウェア単価の安い低価格サーバーは、収益の源となるサービス事業にもメリットは少ない。

■未開拓市場の策として

　にもかかわらず、各社がこの領域に積極的に踏み出すのは何故か。

　ひとつには、中小企業の導入や、大手企業の部門における導入および増設需要、または、スタートアップしたばかりのベンチャー企業のサーバー導入など、この価格帯のサーバーに対する需要が確実に存在する点だ。

　一部企業では、デスクトップPCとして導入した機器が、自然とサーバー的な役割を果たすようになり、これの代替機種として低価格サーバーを導入するという、PCからサーバーへの置き換えも発生している。

　また、卸や工場、コンビニエンスストアなどの拠点が多い業態において、リモートコントロール用のサーバーとして、これらの製品が導入される例も増えている。

　実は、NECがこの分野に参入したのも、従来のサーバー販売だけでは、明らかに未開拓の市場が残るのを認識したことが背景にある。

　数年前、デルが急速にシェアを伸ばす状況下で、NECが直接、デルと商談でぶつかるというケースは極めて稀であったという。これは、裏を返せば、NECが入りきれていない領域においてデルがサーバーを伸ばしている証しであり、それが低価格サーバー領域であったのだ。

　サーバー事業におけるビジネスチャンスをあらゆる角度から獲得するという意味では、低価格サーバーは避けては通れないといえる。

　2つめには、低価格サーバーを切り口に、ビジネスを拡大できるという思惑だ。

　日本における中小企業のサーバー導入率は、米国の3分の1にとどまっている。低価格サーバーを武器に、これまで導入を敬遠していた中小企業にもアプローチしやすくなるというわけだ。

■増設で単価アップを実現

　このように、入口は低価格サーバーではありながらも、その後のサーバー増設や大規模サーバーへの置き換え、ストレージ増設やソフト、サポートといった領域にまでビジネスを発展させることができる点で、メーカー、ディーラーには大きなメリットがあるといえよう。

　さらにいえば、増設による単価アップの実態があることも見逃せない。

　低価格サーバーを導入している多くのユーザーが、オプション増設などを行っており、最も安い1万円台、2万円台のサーバーをそのまま購入していく例は、各メーカーとも1割以下にとどまっている。

　NECでは、最低価格を表示しているExpress5800/110シリーズにおいては、オプションの増設などにより、平均実売単価は10万円近くまで引き上げられている。

　こうしたオプションによる利益確保に踏み出しているというのが、各社の取り組みだ。

　では、今後の低価格サーバーの動向はどうなっていくのだろうか。

　現時点では、3万円以下の低価格サーバーの需要は、それほど大きな規模にはなっていない。台数ベースでも1割には達していないレベルだ。当面、この比率は変わらないだろう。

　また、価格下落も、在庫調整などによって特別価格が一時的に出る可能性はあるにしても、ある程度、限界にきているといっていい。

　そのなかで、メーカー、ディーラーに求められているのは、低価格サーバーを切り口に、いかに新規需要を掘り起こし、付加価値提案ができるかだ。低価格サーバーと、業務ソフトやコミュニケーションツールなどとの連動提案も求められるところだ。

　低価格サーバーは、ミッドレンジサーバーのビジネスを脅かすものではなく、新たな需要層を開拓していくツールと位置づけるのが、実態に即した考え方であろう。