互換性ある次世代通信網の敷設へ

　ワールドワイドの通信事業者をはじめネットワーク機器メーカーやNIerなどのベンダーが参加する団体「マルチ・サービス・フォーラム（MSF）」は、世界各国の誰でも次世代通信網を利用できる環境作りに力を入れている。その一環として、通信事業者による次世代通信網の敷設で連携を促進するほか、相互互換性のテストを実施する予定だ。2006年には、米国と英国、日本、韓国の4か国が参加した通信事業者のグローバル相互実験で好成果をもたらした。実際の利用に向け着々と取り組みを進めている。（佐相彰彦●取材／文）

■検証テストの実施へ　これまでの課題を解決

　MSFでは、次世代通信網のコンポーネントとインターフェースに関する検証を行っている。米ニューハンプシャー大学に相互互換性ラボを設置、今年10月にはパイロットテストを実施した。本格的なテストは08年1－3月を予定している。

　テストでの検証事項は、モバイルスイッチングサーバーとメディアゲートウェイ間に位置するネットワークインターフェース。第3世代携帯電話から通話やデータ送受信を行い、一般の電話回線であるPSTN（公衆交換電話網）やPLMN（公衆陸上移動網）などとの互換性があるかどうかを調べる。これが実現できれば、公衆電話からでもIP経由で通話できるようになるという。携帯電話と一般電話の通話料金を大幅に削減することが可能で、ユーザーにとっては大きなメリットだ。MSFでは、この検証に大きな成果が出れば移動体通信事業者を中心に、その仕組みを公開する計画だ。

　また、この成果をもとにワールドワイドの通信事業者に対してフィールドトライアルの参加を呼びかけ、相互検証実験「GMI2008」を実施する。02年から始まって08年で4回目を迎えるこの実験では、音声や映像をはじめ、ネットワーク管理やロケーション管理、アプリケーション、インターコネクト、QoS（通信速度の保証技術）、IPTV、IMS（IPマルチメディアサブシステム）などを検証事項にあげている。

　MSF関係者は、「通信事業者間の相互運用を行うプログラムに関して、メーカーから次世代通信網の製品開発を迅速に行える点で評価を得ている。まずは技術検証で成果を出すことが重要と判断した」としている。

　前回の実験「GMI2006」では、6項目の課題が浮上した。それは、（1）QoSのシステム構成が業界内で一貫した導入がとられていない（2）各メーカーのアーキテクチャがさまざま（3）適したIMSターミナル機器が存在していない（4）認証に必要な操作が多すぎる（5）異なるネットワーク間のローミングサービスに問題が生じた（6）SIP（通話制御プロトコル）ベースの通信経路が未発達であるためQoSが低下する──といったもの。ただ、「こうした課題が浮上したことで、通信事業者はどのような次世代通信網を構築すべきか、認識できたのではないか」とMSF関係者はみている。こうした課題を「GMI2008」で解決するという。

■ハードメーカーの開発がカギ　ISVの海外進出にもつながる

　「次世代通信網を稼働させるためにはメトロイーサネットが欠かせない」。そう語るのは、メトロイーサネット関連機器の標準化を進める団体「メトロ・イーサネット・フォーラム（MEF）」のナン・チェン代表。ネットワーク関連メーカーによるサービスプロバイダへの最適な製品開発が必須としたうえで、「通信事業者それぞれが構築する次世代通信網が互換性を持たなければならない」としている。複数のサービスプロバイダ通信網をつなげるため、「E’NNI（エクスターナル・ネットワーク・ネットワーク・インターフェース」と呼ばれる規格を提唱しており、MEF参加企業に対して同規格に基づいた製品開発を促している。E’NNI製品で「20社以上のサービスプロバイダを連携させたといったテストケースもある。雛型を策定し、互換性を訴えていく」（チェン代表）としている。

　通信事業者向けビジネスを手がけるハードメーカーにとっては、次世代通信網に合わせた製品開発が成長のカギになる。加えて、通信事業者間で互換性が高くなれば、法人向けビジネスが主流のハードメーカーにとっても、「どのプロバイダと契約しても、最適なアプリケーションサービスを受けられる」といった提案により、ユーザー企業のネットワークシステム案件を獲得する可能性は高い。

　また、ISVにとっては、通信事業者が互換性のある次世代通信網を構築してSaaSなどのプラットフォームでアプリケーションサービスを提供するようになれば、どの通信事業者からでも月額課金のサービスを提供できるようになる。どんなネットワークインフラ上でもサービス提供が可能になるので、SaaSなど通じて海外進出を図る国産ISVも出てくるのではないだろうか。

　通信事業者による次世代通信網の構築は、“土管”といわれる回線を現状よりも広げることで音声や映像、データを迅速に配信可能にすることが目的だ。なかでも、法人市場では太くした回線の上で配信するアプリケーションがユーザー企業を増やすカギと通信事業者の間では認識しているようだ。

　ベンダー側にとっては、こうした動きを捉えることが、ビジネスチャンスにつながるといえよう。