地の利生かしオープン化進めよ

　日本の自動車メーカーが世界トップにのぼり詰める今、国内の組み込みソフトや半導体ベンダーは大きなビジネスチャンスを手にしようとしている。国内自動車メーカーとは、世界のどのITベンダーよりも近い地理的ポジションにあり、この“地の利”を最大限に生かし“勝ち馬に乗る”ことが国内ITベンダーの閉塞感を突き崩すことにつながる。

　これまで国内IT産業は、米国を中心とする世界の強豪ベンダーを前にしてグローバル展開の行く手を阻まれてきた。その米国ITベンダーの成功は、コンピュータで世界を席巻したIBMの存在が大きく影響している。マイクロソフトやインテルはオープン化の流れをつくり世界へ進出したが、オープン化のベースとなったパソコンはIBM互換機から発展したものだ。

　IBM互換から始まったパッケージソフトやCPU、サーバー、パソコンは、個別のベンダーの規格ではなく、誰もが利用できるオープンな規格として世界中へ広がる。米国ITベンダーが主導的役割を果たした結果が、今日の米国勢有利の勢力図を形づくった。この勝利のパターンは今の“国内自動車メーカーと日本のITベンダー”にも当てはまるのではないか。

　国内にはトヨタ自動車を筆頭に日産自動車、本田技研工業と世界上位に位置する巨大メーカーがひしめく。カーナビは自動車を制御し、安全に運行するための情報インターフェースへと変わる。従来は個別に動いていたカメラや加速度センサー、ハイブリッド制御などさまざまな電子機器の統合化も急ピッチで進む。自動車1台あたりの開発費に占めるIT関連の比率は、これまで5％程度と言われてきたが、向こう10年以内に15─20％に拡大すると見込まれるほどだ。さながら1台の大きなコンピューターであり、大量の組み込みソフトやアプリケーションソフトの需要が生まれる。自動車のIT化に詳しい半導体産業新聞の泉谷渉・産業タイムズ社取締役編集局長は、「パソコンや携帯電話に代わる巨大アプリケーション市場」とみる。またとない成長市場だ。

　ポイントは、どうやってオープン化を進めるか──である。もし、オープン化を進めなければ、マイクロソフトやインテルにはなれず、単なる下請けベンダーのままだ。いずれコスト競争力のある中国やインドのベンダーに置き換えられる。たとえば、世界トップのトヨタが採用した車載用通信規格が、世界のデファクトスタンダードになるのであれば、これに対応したソフトや通信機器をすかさず投入する。以前の“IBM互換”のようなもので、すでに世界展開している自動車メーカーを踏み台にして自らの市場を開拓する戦略だ。

　ただし、自動車メーカーからみれば、国内ITベンダーだけと組む理由はなく、いい技術があれば世界のどこからでも調達すべき性質のものだろう。国内ITベンダーは、組み込みソフトや半導体の設計力に一段と磨きをかけ、まずは共に世界を攻めるパートナーになる。このうえでオープン化を主導する戦略と主体性が求められる。

　国内大手自動車メーカーのパートナーとして影響力を巧みに利用し、IT専業ベンダーの強みを生かしたオープン化戦略を成し遂げられるかが勝負の分かれ目になりそうだ。