ハードウェアの売価下落を中心に厳しい状況が続いていたディストリビューション事業に明るい兆しが差し込んできた。2008年のディストリビュータ業界の動向を天気図で表すと“晴れ時々曇り”。パソコンやタワー型サーバーの国内市場は成熟期に入っているものの、高付加価値の製品と独自のサービスで利益率を高めていく方針だ。また、SIへの転換や自社ブランドでの販売など新しいビジネスモデルを構築するディストリビュータも出ている。(佐相彰彦●取材/文)
新ビジネスモデル構築の動きも

ディストリビュータ各社は、販売代理店のSIerに対して製品の優位性を生かした提案を積極的に行うことで活路を見い出そうとしている。
丸紅インフォテックでは、「右から左に製品を流すだけでは意味がない。扱っている製品をよく熟知し、『この業者から製品を仕入れればビジネスが拡大できる』と販売代理店に思わせるようなビジネスを手がけなければならない」(天野貞夫社長)としている。統合ウェブEDIを生かしたECビジネスの強化やリサイクル事業などに力を入れることで業績拡大を狙う。
東芝情報機器でも、「差異化技術をアピールすれば、リプレース需要を促せる」(山下文男社長)としている。売価下落は、機能に特徴を持たないコモディティ(日用品)化した製品にとくに現れている。例をあげればパソコンだが、パソコンのなかでも「ユーザー企業に使い勝手がよいと意識させる製品は必ずある。そういった製品を提案し、なおかつ付加価値の高いサービスを提供していく」(山下社長)という。同社では、セキュリティをベースとしたサービス「PC運用上手」を提供。パソコンとサービスの両輪でビジネス拡大を図る。
得意のコンピュータ機器だけでなく、ネットワーク機器の販売など商材を拡充することでビジネス領域を広げようとしているのはダイワボウ情報システム(DIS)。ネットワーク機器メーカー大手のシスコシステムズと販売契約を結び、DISグループの全国各拠点でシスコシステムズの資格「CCNA」の取得を重視。現段階で300人を超える人員がシスコ製品のエキスパートになっており、「営業基盤の強化」(松本紘和社長)で提案力を引き伸ばしていく。
新しいビジネスモデルの構築に力を注ぐのはソフトバンクBB。コンシューマ市場で店頭向けに「Softbank SELECTION」という自社ブランド製品を立ち上げた。第一弾として、パッケージソフトの販売に着手。「市場を盛り上げることが重要。自社ブランドをカンフル剤に活性化につなげる」(溝口泰雄・取締役執行役員コマース&サービス統括)としている。法人向け市場では、携帯電話とアプリケーションサービスの組み合わせ、携帯端末の「スマートフォン」へのSaaS搭載などにチャレンジしており「徐々にではあるが、案件が出始めている」と自信をみせている。
新しいビジネスモデルの構築策として動きをみせ始めているのがSI事業への着手だ。東京エレクトロンデバイスでは、コンピュータとネットワークの両方に強いディストリビューション力を生かし、「SIで市場を掘り起こしながら、販売代理店の営業支援にもつなげる」(砂川俊昭社長)考え。
ディストリビュータを取り巻く環境は、ハードの価格下落などで依然として厳しい。しかし、厳しい時期だからこそビジネスチャンスと捉え、新しい方針を示すディストリビュータが多いのも事実だ。しかも、サーバーを中心に統合化や仮想化が進みつつある状況をプラスとし、ブレード型サーバーの販売をはじめ、シンクライアントや関連製品でシステム提案力を向上させるという動きも出ている。各社とも、ソリューションを前面に押し出すことでハードウェアの需要を喚起させようとしているわけだ。そういった点では、天気図として“晴れ”とみているディストリビュータが多いのは頷ける。しかし、変わらない場合は“曇り空”が続くことになる。


ブレード型サーバーのニーズが高まっていることから、IAサーバーでビジネスが拡大できるとの見方が強い。そのため、各社とも販売に力を入れている。ネットワークインフラの見直しも浮上しつつあることから、ネットワーク機器販売への着手でビジネスの幅を広げることも重要なアイテム。
パソコンとタワー型を中心としたIAサーバーの両市場が成熟していることから、今後は需要が大幅に増大することはない。しかし、リプレース需要は確実にあるため、それを逃さないことが重要。例をあげれば、2000年問題で活発化したシステム導入の第2次リプレースが出るとの見方も強い。
ハードを中心に売価下落が進んでいることから、単に製品を卸すだけではビジネスとして成立するのは難しい。在庫滞留期間の短縮や物流の改善など、いかにコストを削減できるかがカギを握る。また、低価格製品を中心とした販売は生き残れない危険性が高い。旧態依然のビジネスモデルは淘汰されるといえる。

●各社による中堅・中小規模向けブレード型サーバーの市場投入が相次いだ。ディストリビュータにとっては、IAサーバーを拡大するプラス要因につながった。業績面でも、利益率の高い商材として重要なアイテムになった。
●東芝情報機器が本社を東京・豊洲に移転。本社機能の新社屋に集約することでビジネス拡大の準備を進めた。東芝パソコンシステムの直販営業部門を統合し、法人向け国内パソコン販売を再編していたことから「全社一丸となって成長できる」と山下文男社長は自信をみせた。
●丸紅インフォテックが、親会社である丸紅の100%子会社になったことから上場を廃止した。新社長の天野貞夫氏は、「独立独歩で行うよりも、グループ連携の強化が重要」と説明。08年度(09年3月期)から新生丸紅インフォテックの真価が発揮される。
●多くのディストリビュータが業績不振にあえいだ。ハードの下落が最も響いた。なかには堅調に伸ばすディストリビュータもいる。07年は、ビジネスモデルの抜本的な見直しが相次いだ年だった。