ITCと中小SIerの協業で活性化を

　日本全国で課題となっている中小企業のIT導入。とくに、地方ではいっそう深刻な状況だ。地域経済を活性化させるためには、企業が攻めの経営を行える環境を作ることが必要。1つの方法としてIT化があげられるが、遅々として進んでいない。

　こうした状況が続けば、IT業界には決して明るい未来が開けているとはいえない。地方では、ビジネスの継続も厳しくなる危険性すらある。首都圏と比べて圧倒的に需要が少ないため、業績不振に陥るITベンダーが相次いでいることもその深刻さを物語っている。何とか打開できないものだろうか。

　そもそも、中小企業のIT導入が促進されないのは何が原因なのか。依然として、ユーザー側にITに対する不安や不信があるからではないか。システムのオープン化が進んでいる一方、オープンではない既存システムを変えることは業務そのものを変革することになる。社内に情報システム部門や、システムに詳しい人材がいなければ不安なのは当然だろう。　仮にユーザー企業がシステム改善を決断しても、ベンダー側が高額なパッケージ製品を提供すればどうなるか。その製品がたとえ質の高いものだとしても大企業向けのもので、導入するユーザーに適したものでなければ「コストが高い割に、効果がみられない」という結果を招いてしまう。

　中小企業のIT化が進まないのは、不信感を抱かせるベンダー側のこれまでのシステム提案にも問題があったといわざるをえないのではないか。

　そんななか、中小企業に向けてシステム提案に力を注いでいるのがITC（ITコーディネータ）である。なかでも個人で動いているITCはユーザー企業の実情を見据えた最適なシステムをコーディネートしてくれるとして、評価が高い。現場に入り込み、きちんと課題を把握し解決する実力があるからだ。

　例をあげると、四国に長尾和彦氏というITCがいる。SIerのエイド代表取締役でもある同氏は、経営革新をコンセプトとしてITを提供することを追求している。その長尾氏は、和惣菜卸製造のアオヤマに対して業績を伸ばす手段としてIT導入を勧めた。ユーザーの青山重俊・アオヤマ代表取締役は、「長尾さんとの出会いでIT導入前と異なった、もう一つのやり方を手に入れた」と評価する。青山代表取締役は直感で判断する経営者。経営の“勘”が鋭く、これまでの事業を成功に導いてきた。しかし、「蓄積した経験を数値にしたデータを使って、ビジネスを拡大することも必要」とも認識しているようだ。青山代表取締役は「IT嫌いだった」そうだ。ITのメリットを長尾氏が認識させたわけだ。

　ただ、ITCにも取引先の数に限界がある。一方、地方の中小SIerのなかには「うちにも、ITCのような人材が欲しい」と漏らす経営者がいる。ITCの資格を社員に取らせたくても、“日銭”を稼がなくてはいけない。「有給休暇を取らせてやりたいのだが…」とジレンマを感じているようだ。この問題を解決すためには、ITCと地方の中小SIerが協業する仕組みがあってもいいのではないか。これが、結果的に中小企業のIT化を促進する策の一つになる。