内田洋行（向井眞一社長）はビジネスモデルの刷新に向けて動き始めた。これまで中堅中小企業向けの基幹業務システムの構築で強さを発揮してきたが、大手企業向けのSIは手薄だった。ここを重点的に拡充することでビジネス拡大の突破口をつくる。オフィス家具との融合によるユビキタスコンピューティングの実現など“内田洋行らしさ”を前面に出していくことで競争優位性を高めていく。（安藤章司●取材／文）

ユビキタスで“らしさ”打ち出す

■UCとオフィス家具を融合

　情報システムとオフィス家具、文教の3つの市場を柱として持つ内田洋行。オフィス家具は大手から中堅中小まで企業規模を問わず幅広い顧客層を持ち、文教でも教育現場を幅広くカバーする。

　しかし、情報システムに限っては中堅中小企業のウエートが高く、大企業に十分に食い込めていなかった。ここ数年の全社業績も伸び悩み傾向がみられ、「各事業の融合と、それによる相乗効果を発揮できるビジネスの再構築」（向井社長）が急務だった。

　打開策の1つとして着目したのが、グループ企業でソフトウェアライセンスの販売・管理サービスなどで急成長するウチダスペクトラムである。ソフトライセンスの販売先は大手企業が多く含まれ、なかには「購入したソフトを使ったシステム構築を望む顧客も少なくない」（村田義篤・マーケティング本部ネットワークテクニカルセンター部長）という。

　だが、システム構築部隊の大半は内田洋行本体に在籍しているため十分に対応できていなかった。ここにビジネスチャンスを見いだした同社では、昨年夏、本体のSEの一部をウチダスペクトラムに常駐させ、大手企業をメインターゲットとするSIビジネスを本格的にスタートさせた。

　まず力を入れたのが、ユニファイドコミュニケーション（UC）分野。マイクロソフトのUC関連商材を中心に受注活動を展開したところ引き合いが強く、SIサービスだけで今年度（2008年7月期）10億円規模のビジネスになる可能性が出てきた。既存のライセンス販売や関連するハードウェアの販売も含めれば20－30億円に膨らむ見通し。一般的なSIビジネスより収益性が高く、「大手企業におけるビジネスの足がかりをつくることができた」（村田部長）のが大きな収穫である。

■付加価値の増大目指す

　UCは価格競争が激しいIP電話などが密接に絡む分野で、収益をあげにくい分野とされてきた。だが、得意のソフトライセンス販売・管理サービスと組み合わせ、かつマイクロソフトとの協業を進めることで収益性を確保。さらに今後は自社のオフィス家具との融合を積極化することで付加価値の増大を図る。たとえば、インターネット会議用のシステムとUCとの組み合わせや、会議参加者の声を拾いやすいよう音響対策を施した会議室や円卓などの設備との最適化など、ITとオフィスを一体化させた提案を拡充させる。

　内田洋行ではITとオフィス、文教マーケットなどの融合を加速させるための研究開発や設備投資に力を入れており、ここ数年は年間30億円ほどを投じている。研究開発の人員は100人余り抱え、「イノベーションの継続に取り組む」（向井社長）としている。今回のウチダスペクトラムのリソースを活用して立ち上げた大手企業向けSIサービスビジネスでは、UCだけにとどまらず統合認証基盤やバックアップサービスなどセキュリティも展開する。これにより2年後の2010年には関連事業も含めて100億円規模への成長を狙う。

　これまで、内田洋行のSIビジネスは、中堅中小向けERP（統合基幹業務システム）「スーパーカクテル」シリーズを軸とし、直販および全国100社からなる販社網のUSAC会をベースに展開してきた。今後は大手企業の領域にもSIサービスを中心とした新規ビジネスを矢継ぎ早に立ち上げていくことで再び成長路線に乗せる。同社は2010年には創業100周年を迎える。それまでに販社網やグループ会社の再編も視野に入れつつ、ユビキタスコンピューティングをベースとした“内田洋行らしさ”を前面に出したビジネスモデルへの刷新をより具体化させる。