さまざまな製品やアライアンスを通じて、IBMがロータスソフトウェア事業で狙うのは顧客層の広がりだ。グループウェア「ロータス・ノーツ」はクライアント製品として多くのユーザーを獲得しているとはいえ、SMB(中堅・中小企業)が導入しているケースは少ない。マイク・ローディン・ゼネラルマネージャーも、「大企業の獲得が中心だった」と認める。これは、ロータス製品が大企業に適している機能を充実させているからではないか。

しかし、「ウェブ2.0という概念は、特定の顧客層に限定されない。誰もが活用できる」(ローディン・ゼネラルマネージャー)。そこで、SMB市場への本格参入に踏み切ったのだ。 だが、参入すると宣言したからといって顧客が集まるとは限らない。明確な戦略や製品がなければ、“大企業向け”というイメージはぬぐえない。そこで、社員が5人から500人規模の企業ニーズに応えるソフトウェア・ポートフォリオの拡充計画を打ち出した。その具現化の一つがサーバーアプライアンス製品「ロータス・ファウンデーション」だ。
同製品は、必要なソフトウェア機能を搭載。現段階で、「ロータス・ドミノ」のメール機能をはじめ、コラボレーション・プラットフォーム、ファイル管理、ディレクトリサービス、ファイアウォール、バックアップ、ディザスタリカバリ(災害復旧)などの機能を揃えている。それに加えて、IBMのSMB向けの製品提供を重視した施策「エクスプレス・アドバンテージ・プログラム」をベースに、パートナーシップを組んでいるSIerやISVのアプリケーションサービスなどを組み合わせる計画だ。同製品を提供するため、中規模向けサーバーソフトを提供するカナダのネットインテグレーションテクノロジーをこのほど買収した。
ただ、IBMはアプライアンス製品だけでSMB市場でシェアを拡大できるとは考えていない。「ブルーハウス」と呼ばれるコードネームで新しいウェブ型配信サービス提供のあり方も模索している。具体的なサービスメニューは明らかにしていないが、「SMBが必要なアプリケーションサービスを好きなときに必要な期間だけ使えるようなサービス」と、SaaSを切り口としたサービスになる模様だ。
米国・オーランドで開催された年次カンファレンス「Lotusphere 2008」では、製品やアライアンスを次々と発表した。このカンファレンスは毎年実施されているが、「(新しい発表の)ボリュームは例年以上」と関係者は感想を述べる。では、なぜ今回はとくに多くの強化策を打ち出したのか。ロータスソフトウェアのワールドワイド戦略を担当するアラン・レポフスキー・シニアマネージャーは、「企業によるビジネスプロセスの変革で、個人ユーザーが使うサービスを業務でも活用できるようにしなければならない。サービスをつなげることが重要だ。そのため、多くの強化策を打ち出した」としている。(佐相彰彦●取材/文)