情報発信者とならない日本人の弱み

　「利用するだけで、貢献しない日本人」。OSS（オープンソースソフトウェア）の分野で、日本人は世界でこう呼ばれている。

　OSSはソースコードが公開され、誰でも好きなように改善できる。情報を全世界に向けて発信し、複数の開発者が共有することで、ソフトの品質を高める。そのOSSを改善する人間、いわば「貢献者」が日本には少ないというのだ。

　実は、日本はOSSの中心的存在であるLinuxの技術者育成について関心が高く、取り組みが最も進んでいる国だ。

　約150か国で展開されるLinux技術者認定試験制度「LPIC」は、2000年の開始以来、ワールドワイドで約17万人（08年1月時点）の受験者を抱える世界最大の認定試験制度（「LPIC」運用を手がけるLPI調べ）だ。特定のLinuxディストリビュータに依存せず、中立的な立場でグローバル展開する唯一の制度といってもよく、Linux認定試験制度でデファクトスタンダード（事実上の業界標準）化している。そのなかで、日本人の受験者数は約8万9000人。全受験者のうち、実に52・3％を日本が占めているのだ。

　LPIの日本支部であるエルピーアイジャパン（LPI－Japan）の成井弦理事長は、日本人が最も多い理由をこう説明する。「日本が強いゲームソフトとロボット開発のプラットフォームは、Linuxがメインであること、家電などの組み込みソフトもLinuxベースで開発されることが多いことが影響しているのだろう。また、Linuxを推進するメインフレーマ4社のうち、3社が日本企業であることも関心を引き付ける要因ではないか」。

　関心は高く教育にも熱心で、Linuxを使う環境があり、活用頻度も高い。それなのに、貢献度が低いのは何故なのだろうか。

　成井理事長は、根本的な問題が原因と指摘する。それは「言語」と「〝貢献〟に対する考え方」だ。OSSコミュニティの世界でも公用語として使われるのは英語であり、言語のスキルが世界に比べて低い日本人は不利という。「斬新なアイデアや提言を持っていても、それを表現できる言語力がない。それでは、存在感を示すことはできない」（成井理事長）。

　もう一つの「貢献に対する考え方」では、会議を例にこう説明する。「日本は会議に参加したときに発言（貢献）しなくても、次の会議に呼ばれる。つまり、貢献しない人間も戦力としている。欧米では、発言しない人間は次の会議には呼ばれない。『貢献しよう、しなければならない』という意識を、欧米人は日本人より強く持っている」。

　少子高齢化社会が進み、日本企業は今後、グローバル展開しなければ生き残れないとされている。それは、IT産業も例外ではなく、事実、国内のIT市場の成長率は数％程度しか伸びは見込めない。BRICs諸国のITレベルが猛烈な勢いで高まり、国内ベンダーを脅かす存在にもなりかねない。そのなかで、OSSの貢献度の低さは、単なるOSSコミュニティ内の存在感の低さを示しているだけでなく、グローバル競争で勝ち抜くための最低限のスキルを、日本（人）が持っていないことの現れのようにも感じられる。