中小IT化に一石投じ、継続へ

　中小企業の「IT経営」促進を目的に全国をバスで巡回する啓発活動「IT経営キャラバン隊」（会長＝関隆明・ITコーディネータ協会会長）は2月29日、グランドフィナーレを迎えた。国内企業の99・7％を占める中小企業は、流通・サービス業を中心にIT利活用が進まず、先進諸国に比べ労働生産性が低い。いまや中小企業のIT化は「国家的な課題」と位置づけられている。ここに同キャラバン隊の活動が一石を投じたのは間違いないが、これをいかに「継続」するかが課題だ。

　同キャラバン隊のバスは、1年3か月にわたり全国120か所、走行距離にして約6万キロ（地球1周半）を飛び回った。参加者は中小企業経営者を中心に延べ150日間で2万2000人に達した。中小企業経営者の多くは「IT化＝人員削減」などと見る向きがあり、IT化を毛嫌いする傾向があった。また、効果的なIT投資をしたいと考えても、ITベンダーなど「良きパートナー」を見つけるのに苦労をする。中小企業のIT化を促進するには、この意識を変え悪循環を断ち切る必要がある。その解の1つが同隊の活動による「きっかけづくり」である。

　同キャラバン隊には、ITコーディネータ協会や日本商工会議所、経済産業省、大学などのほか、マイクロソフトら12団体・企業が全面バックアップ。全国巡回数の70％を占めたITコーディネータ（ITC）が中心となりIT導入成功事例の紹介や相談会などを行う「IT経営モデル」のイベント参加者は、80％以上が経営者や管理職者。マイクロソフトの眞柄康利・執行役専務は「当社では、10年前と5年前に自社のITキャラバンをしたが、『お前行ってこい』と言われてイヤイヤながら来場した企業関係者しかいなかった」と振り返り、関係団体と連携したことで経営層にリーチできたことを喜ぶ。

　「IT経営モデル」のイベントで、事例紹介したITCは71人、相談役を務めたのが104人に上る。マイクロソフトによれば、同イベントに参加した中小企業では大半がパソコンを有し最低限のインターネット接続をしていたが、表計算ソフトウェアやメールなどは未使用。当然、これでは「IT経営」の実現は不可能だ。

　そこで、ITCが最小限の投資で実現したIT利活用の成功事例を発表し、経営診断・相談を実施した。どれだけのITCと経営者が「出会う」ことができたか統計はないが、経営者にとって刺激的な機会であっただろう。実際、同モデルは、32か所の商工会議所で来年度も継続。さらに、今回使用した「キャラバンバス」は、「ある団体に譲渡する」（眞柄・執行役専務）と、このスタイルは規模が小さくなるものの継続が決まった。

　ただ、ここに登場するITCだが、「地域ごとにいつも決まったメンバーになってしまう」という声も聞かれる。アクティブに活動する独立系ITCの数に限りがあるのだ。しかし、あるITCは「私たちは、成熟期を迎える前の『イノベータ（革新者）』の役目を担っている。中小企業のIT化はこれからが本番で、アクティブな人材を養成するために見本となる」という。ITCやITベンダーが中小企業経営者に知られる機会を生んだ今回のキャラバン隊が、32か所にとどまらず全国に受け継がれることを期待する。