“使いたくても使えない”が悩み

　ソフトウェアの設計図であるソースコードが無償公開され、誰でも好きなように改良できるOSS（オープンソースソフトウェア）。無償で利用できることと、開発の柔軟性が高まることなどにメリットを感じて、前向きな姿勢を示すITベンダーが増えている。ただ、現実には、思惑ばかりが先行して実際のビジネスにはほとんど結び付いていないようだ。

　独立行政法人の情報処理推進機構（IPA）が783社のITベンダーから回答を得た調査レポートによると、OSSを「活用しない方針」と答えたのはわずか1・4％。関心はやはり高いことがわかる。それにもかかわらず、「利用していない」と回答したのは全体の30・5％を占める。さらに、「利用実績が少ない」と「自社利用のみ」を合計すれば85・9％にも達する。積極的な姿勢とは裏腹に、実ビジネスではOSSはほとんど使われていない。「使わない」のではなく「使いたい意思はあるのに使えない」のだ。

　理由は人材不足とサポート、そしてライセンスの複雑さにある。精通した技術者の確保は各社ともに共通課題で、先の調査では回答企業696社のうち72・8％が「総合的に精通した上級技術者が足りない」と答えた。さらに、51・0％が「案件をマネジメントできる人材が足りない」状況という。開発とプロジェクト管理面どちらもOSS分野の有力人材が少ないことを如実に表している。精通した人材がいなければ、商用ソフトに比べて複雑なOSSのライセンス体系を理解できないし、サポートも当然できない。この3つの問題は、すべて人材難に起因している。

　2006年からOSSの専門部署を設置し、本格的に取り組んでいる富士通ビジネスシステム（FJB）も人材難に悩んでいる1社だ。もともと「・NET」ベースのシステム構築を主眼に置いていたが、OSSの引き合いの強さから事業体制の整備を進め、昨年後半には専門人員50人を確保した。しかし、金沢昌一・マーケティング本部プロモーション部長は、「組織の整備や精通した技術者の育成はまだ発展途上」と打ち明ける。また、ある中堅SIerは「営業担当者が大規模なOSS関連案件を獲得できそうな時でも、今は安心して任せられる技術者が社内にいない。結果的に断るか、協業先に任せるしかない」と苦しい胸の内を明かす。

　需要はあるものの供給体制が整っていない──。これがSIerのOSS事業に対する実態だ。ただ、これは大きなビジネスチャンスを意味している。IPAでは、市場の緩やかな成長を見込んでいるが、もし3つの課題を解決できた場合、マーケット規模は1・5倍に膨らむと予測する。

　OSSは、日本語の資料が少ないなど人材育成に時間がかかる。また、ITベンダーの営業担当者は、利益よりも売り上げで成績を評価されるケースが多く、商用ソフトベースのシステムを提案しがちという風習がある。しかし、「顧客は着実にOSSを勉強している」（FJBの金沢部長）。需要と供給のバランスが取れていない状況を考えると、戦略的にOSSを強化するのは、競争力を高めるための1つの選択肢になるはずだ。