クライアント統合ビジネスが活発化している。維持管理コストがかかる従来の分散型クライアント/サーバー(C/S)システムの問題点を解決するクライアント統合の技術革新が進展。仮想化やブレードPC、リッチクライアントなど新技術が矢継ぎ早に打ち出され、企業ユースにおけるクライアント統合ビジネスは新たな局面に差し掛かる。一方、クライアントの使い方は多様性に富んでおり、1つの技術要素で統合するのは困難。利用シーンに合わせ、複数の技術を組み合わせるシステム構築のノウハウがクライアントビジネスの拡大に欠かせない。
次ぐ技術革新が後押し
クライアント統合で課題だった使い勝手や処理速度の低下を防ぐ新技術が相次いで登場している。ヴイエムウェアやシトリックス・システムズ、マイクロソフトが相次いで新しい仮想化ソフト技術を投入。販売増で割安感が出てきたブレード型のパソコン(ブレードPC)や、アドビシステムズなど有力ベンダーがRIA(リッチインターネットアプリケーション)に参入し、クライアントを取り巻く技術環境は、今、大きく様変わりしつつある。SaaSやSOAなどソフトウェアのあり方も変化。クライアントビジネスはこうした技術要素を組み合わせる複合ビジネスへと進展している。
従来の分散型クライアントの課題である維持管理コストの高さは、サーバーベースのシステムへ統合することで大幅に軽減できる。パソコンをブレードPCに置き換えたり、仮想マシン化してサーバー室に収容(仮想PC方式)、あるいは業務アプリケーションをウェブ化して配信する方法などがある。ウェブ化はSaaSとの共通項も多い。クライアント基盤ソフト開発のアクシスソフトはSaaS型アプリとの連携を視野に入れる。各方式とも一長一短があり、顧客企業の要望に合わせてシステムを組み合わせる必要がでてくる。
例えば、クライアントの台数は企業によりさまざまで、処理すべき情報量も異なる。所要量を計算しやすいのはパソコン1台に1枚のブレードPCを割り当てる方式。単純な構造だけにメンテナンスも容易。とはいえ、クライアント数が増えるほど物理的な制約を受けやすい。業務アプリを多数の代理店やビジネスパートナーと共有するケースでは、仮想化やウェブ化が有効だ。
だが、仮想PCは技術的にまだ新しく、高性能なサーバーやスイッチが求められるなど「割高になる」(大手ハードベンダー)傾向がある。ウェブ方式は既存のアプリをウェブに対応させるための初期開発コストの負担が課題。実際、中規模以上の顧客のクライアントを統合するケースでは、複数の方式を組み合わせることが多い。SOAの考え方を適用するケースも増える。
日立情報システムズはこの4月、東京都小笠原村の基幹業務システムをヴイエムウェアの仮想化ソフトを使って自身のデータセンターに統合。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は今年に入って伊藤忠建材の約450台のパソコンを日本ヒューレット・パッカード(日本HP)のブレードPCに置き換えた。クライアント統合の引き合いは「今年に入って急増している」(日本HP)と話す。住商情報システムのグループ会社でRIA基盤開発のカールではライセンスの売り上げを今後3年間で今年度(09年3月期)見込みの「4倍に増やす」と鼻息を荒くする。
今後数年のうちに、企業で使うパソコンや主要な業務アプリケーションのうち「2-3割が統合の対象になる」(SIer幹部)という見方もある。従来型のSI事業では十分な利益は得られない。この点、サーバーベースのクライアント統合は、設計・構築の力量次第で付加価値が高いビジネスが見込める。クライアントビジネスの拡大にはノウハウと経験の蓄積が急務だ。
クライアント統合ビジネス 激戦区のインタフェース
RIA技術で使い勝手を改善
クライアント統合ビジネスで、最も競争が激しいのがインタフェースを巡る争いだ。仮想化やブレードPCなどOSやハードウェアに近い領域は、基盤系を得意とするソフト開発大手やサーバーベンダーにプレーヤーが限られる。だが、クライアントアプリケーションに近い領域は、複数のソフト開発ベンダーが入り乱れる激戦区。利用シーンに合わせて、使い勝手を大幅に高めたソフトプロダクトが競い合う。
業務アプリケーションをウェブ化するのもクライアント統合の主な手法の1つ。ブレードPCや仮想PCなどクライアントをOSごとサーバーに収容するのではなく、主要な業務アプリだけ切り出してウェブ化する。しかし、汎用的なインターネットブラウザでは表現力に乏しく、使い勝手が悪い。これを解決するのがRIA(リッチインターネットアプリケーション)と呼ばれる技法だ。アクシスソフトやカールなどの国内勢に対して、アドビシステムズやマイクロソフト、日本ネクサウェブなど外資系が攻勢を強める。
マイクロソフトのRIAソフト「Silverlight(シルバーライト)」は、年内をめどに投入する次期バージョンで、従来のWindowsアプリと同じ開発環境での開発も可能にする。これまでは簡易なスクリプト言語にしか対応していなかったが、「本格言語である.NET環境にも対応する」(鈴木祐巳・デベロッパー製品部長)ことで開発生産性を高める。インタフェースのデザインに特化した開発ツールも用意しており、開発者やデザイナーの負荷を軽減。一方、ライバルのアドビシステムズは、デファクトスタンダード動画技術のFlashをベースにした「AIR」で対抗。激しいつばぜり合いを展開する。
SilverlightやAIRが、動画や映像技術を積極的に採り入れたビジュアル性の強いインタフェースであるのに対し、企業用途を強く意識した業務アプリに重点を置いて開発するのがアクシスソフトやカール、日本ネクサウェブの戦略。いずれも業務用途を念頭においたもので、テキスト文字や表組み、グラフなどビジネスで欠かせない表示機能に優れる。アクシスソフトは業界に先駆けてモバイル対応のクライアントアプリケーション基盤を投入するなど、「対応端末の多様化」(永井一美社長)で差別化する。
RIA開発にコストや時間がかかる課題を解決する動きも活発化している。カールはクライアントアプリの多くが採用しているビジュアルベーシック(VB)言語で書かれたプログラムを自社のRIA基盤に対応させるための変換ツールを開発。開発負荷の軽減によって、「既存のソフト資産をRIA化する需要の喚起」(井藤登社長)に結びつけた。日本ネクサウェブも古い基幹業務システムをRIA対応させるための開発環境を整備。レガシーマイグレーションの手法の1つとして「引き合いが急増している」(藤岡健社長)と手応えを感じている。
サーバーベースコンピューティングのRIAは、サーバー仮想化やSaaS、SOAなどの技術との親和性も高い。開発競争も熱を帯びており、技術革新も急ピッチで進む。クライアント統合ビジネスの重要な要素として、需要の拡大が見込まれる分野だ。