大手2社の取り組み状況を分析

　ハードでもソフトでも常にライバル関係にある富士通とNEC。その両社がSaaS事業で時を同じく2008年前半から同様の動きを見せ始めた。自社だけでなく、ISVやSIerをパートナーとして取り込み、SaaS事業の拡大を計画。着々と準備を進めている。両社の戦略にはどのような違いがあるのか。国内IT大手2社のSaaSビジネスを、サービス内容やパートナー制度など独自に設定した項目別に探った。（木村剛士●取材／文）

■サービス開始時期は？
　富士通が先行

　富士通が「パートナーと共創、SaaSサービスを提供開始」と題した発表を行ったのは2008年2月7日。それに対し、NECは「サービスプラットフォーム事業の強化について SaaS事業を本格化」と銘打った内容を発表したのが3月31日。約2か月の差があるが、ともに昨年度（両社ともに決算は3月末）内に発表し、「新年度から本格スタート」というイメージを印象づけた点を考えれば、その違いにさほどの意味はないだろう。

　ただ、発表のタイミングの差は2か月だが、サービス提供開始時期が大きく異なる。富士通は4月までに全サービスをリリースしたのに対し、NECは一部のサービス提供開始時期が9月末。約半年の差が生まれている。

■サービス内容は？
　ユーザー向けとベンダー向けに

　両社ともにユーザー企業向けとITベンダー向けのそれぞれでサービスメニューを用意している。ユーザー企業には、主に既存アプリケーションソフトの機能をSaaSとして提供するサービス。一方、ISVやSIerなどのこれからSaaS事業を手がけようとしているITベンダーに対し、SaaS事業参入に必要なIT基盤提供やSaaS化するための技術的支援、ビジネスモデル立案のためのコンサルティングなどを各ベンダーに合わせて個別にサポートするサービスを用意している。

　具体的なサービスメニューとして、富士通は大きく分けて3つのサービスメニューを用意している。（1）ITベンダーがSaaS事業を手がけるためのインフラ提供「SaaSプラットフォームサービス」（2）ユーザー企業にアプリケーションの機能をサービスとして提供する「SaaSアプリケーションサービス」（3）ユーザー企業およびITベンダーのSaaS関連サービスを個別の要望に合わせて提供する「SaaSビジネスアウトソーシングサービス」とした。この3つの大分類から、さらにメニューを区切り10種類のモデルを揃えた。

　一方、NECは大きく2つに分けた。（1）アプリケーションソフトをSaaSとして提供する「アプリケーションサービス領域」（2）ITベンダーに対しSaaS事業に必要なアプリケーション開発から運用までを請け負う「プラットフォームマネージドサービス領域」がそれだ。「プラットフォームマネージドサービス領域」については、5区分に細分化して体系立てている。

　表現の仕方や区分方法に多少の違いはあるものの、サービス内容に大差はない。

■パートナー向け制度は？
　技術と事業化のサポート

　両社とも、SaaS事業を自社だけで展開しようとは考えていない。ISVやSIerを取り込み、複数のアプリケーションをSaaS化して、多数のITベンダーが販売する環境を整えてビジネス拡大を図るのが基本戦略。そのため、両社はそれぞれがパートナー向け支援制度をサービスの発表段階で整備した。

　富士通は「SaaSパートナープログラム」の名称で、ITベンダーのSaaSビジネスに必要な要素を技術面および事業化面でサポートする支援制度を用意した。パートナーの分類は、（1）一般会員（2）アプリケーションパートナー（3）リセールパートナーの3つとなっている。

　一方、NECは「SaaSビジネスイノベーションプログラム」という支援制度を整備した。富士通と同様に技術面だけでなく、アプリケーションベンダーやSIerのSaaS事業化への移行支援も手がける内容だ。具体的には（1）アプリケーションパートナー（2）テクニカルパートナー（3）プラットフォーム（PF）パートナーの3分類にしている。

　富士通はSaaSサービスを販売する代理店を「リセールパートナー」として明確に定めているのが、NECにはない特徴。一方、NECはSaaSを提供するためのIT基盤をともに開発するベンダーをパートナーとして定めているのが、富士通にはない特色だ。

■発表当時に賛同した企業は？
　富士通11社、NEC18社

　両社は発表時にSaaS事業に賛同するISVやSIerなどのパートナーを公表している。富士通はオービックビジネスコンサルタント（OBC）やサイボウズ、きっとエイエスピー、マイクロソフトなど合計11社。NECは、ウイングアークテクノロジーズやセールスフォース・ドットコム、住商情報システム、マイクロソフトなど合計18社だった。

　ともにパッケージソフトを持つISVが多く名を連ねている点が共通する。

■事業推進体制は？
　横断的組織でノウハウを集結

　SaaS事業提供はハードやソフト、SIやアウトソーシングサービスなどさまざまな製品・技術、ビジネスモデルの集結が必要なため、両社ともに既存事業部門のノウハウを集めた横断的部門を組織化している。

　富士通は、パートナービジネス本部とマーケティング本部、サービスビジネス本部の3本部の人員で構成する「SaaSパートナーアライアンスチーム」を15人体制で発足させた。また、パートナー支援のために、「SaaSプロデューサ」と呼ぶ担当者を50人設けている。これに対し、NECはシステムサービス事業本部が中心となり、複数の関連部署の人員で構成するバーチャルチーム「SaaS Business Innovation Center」を50人体制で組織している。

■販売目標は？
　1200－1300億円を掲げる

　富士通は「今後3年間でSaaS関連サービスの連結売上高1300億円」と設定。一方、NECは「10年度までに1200億円」の販売を目標に掲げた。期間と金額に若干の差はあるが、ほぼ同クラスの売上高を追い求めることになる。

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総合電機の巨人、日立の動きは？

　もう1つの国内IT大手である日立製作所。連結売上高10兆円を超える総合電機の巨人は、SaaS事業をどう進めているのか。

　NECと富士通がSaaS事業の本格展開を今年前半に発表しているのに対し、現時点で日立にその動きは見られない。日立が今、大々的にSaaSサービスと銘打って展開しているのは、デカルトシステムズジャパンと組んで提供する物流プロセスを可視化するソリューションぐらい。グローバルレベルで物流業務を展開する超大手企業向けのサービスで、今年3月に始めた。SaaSの特徴を生かしたサービスだが、それでも単体の1サービスに過ぎず、SaaS基盤の提供や他社との協業の仕組みを用意したNECと富士通に比べて、その取り組みは見劣りする。

　ただ、広報担当者は「今は発表できる時期ではないが、いろいろな施策を進めている最中」と説明する。広報のコメントからも推測できるが、日立がこのままSaaS事業で大々的な施策を打たないわけはないと思える。国内IT大手、日立が2社に比べて遅れているこの状況でどんな施策を今後打ち出すかは、注目に値する。企業規模が大きいだけに、日立の動向はSaaSの普及速度をも左右しかねないからだ。